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薔薇騎士物語  作者: 雨音AKIRA
第2章 トラヴィス王国編 ~砂漠の王者とロヴァンスの花嫁~

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2章76話 水上と水面下の戦い



 アスランと言葉を交わしていた小柄な中年男を追ってやってきたユリウスは、目の前の景色に驚いていた。



(ここは一体──?!)



 通路の奥は、まるでここが地下であることを忘れてしまいそうになるほどの広い空間が広がっていた。

 

 真っ直ぐな通路の横に、窪んで作られた地階のような場所があり、そこはすべて水で満たされている。その水で満たされた奥の方は、どこか別の場所へと通じているのだろう。まるで大きな洞窟の中を流れる河の様に、水でできた道は繋がっていた。



(ここはまるで地下にある港だ……)



 一瞬ここが砂漠の街の地下であることを忘れそうになる。


 港のようだと感じたのも、あながち間違いではないだろう。何隻もの船がそこには横づけされていた。



「っ──」



 人が近づいてくる気配を感じ、ユリウスは物陰へと隠れる。そろりと様子を窺えば、視線の先には先ほどの小柄な中年男。こちらには気が付いていないようで、顔を黒い覆面で隠した男と何かを話している。



「いいか?我が主が荷物・・をここまで運ぶ。それを言われた通りに届けるんだ。もし約束を違えるようなことがあったら……お前さんたちルシュケの宝は永遠に失われるだろう」



 小柄な男の方が、黒覆面の男を脅しているように見える。



「……わかっている……だがこちらも命懸けだ。あっちが取引にのるかどうか……」


「それをやるのがお前さんの仕事だろ?こっちとしては、荷物・・の行く先を見届けられればいい。いいな?お前さんたちの宝もんが血まみれにならないように、慎重にな。勿論大事な荷物・・に傷ひとつつけようもんなら、主が黙っちゃいない。そこも忘れるな」


「わかってる……」


「合図があったら指示通りに……」



(荷物……荷物ってもしかして……)



 ユリウスは戦慄した。彼らの会話の意図するところに、思い当たってしまったのだ。動揺し、身体が僅かに揺れたその時──



──ガタン──



(しまった!)



「誰だ!」


「っ──!」





****************


 


 観客席で水上戦を楽しんでいるティアンナ達は、その派手な演出に驚きを隠せなかった。


 船は地下の水上闘技場に浮かべられているため、帆はなく、全て人の手で操作されている。漕ぎ手には彼等を守る為の大きな盾を持った護衛も付き、戦闘専門の人員も乗船している。弓手まで設けられているのだから、中々本格的だ。


 10隻以上ある船の縁にはそれぞれ四種類の色で区別された旗がつけられていた。乗り込む船員達はその旗と同じ色の布をそれぞれ頭に巻いている。色によって四つの軍に分けて、その船が敵か味方かを区別しているのだろう。


 しかしそれぞれの軍は皆がただ一様に敵対しているだけでなく、最初はどこを潰すか駆け引きをしているようであった。それがただの一対一の試合よりも先を読めなくしていて面白い。


 今は既に一つの軍が船を全て失い、残りの三つの軍でどちらから攻めようかと対峙している所だ。しかも新たに奪った船の旗は、既に自軍のものに変えられ、船員もそこに乗り込んで戦いに参加している為、船の数では優劣が僅かについている。



「これは凄い……こんな大々的な水上の模擬戦、見たことない……」



 ティアンナが思わず呟いた。自国で騎士として様々な戦いを目にしてきたが、娯楽といってもここまで本格的な水上戦は流石に見た事がなかった。



「こうした水上の戦は、西方の海沿いに住むミラエルという部族が得意としている。今戦っている者の中にも、その部族の出身の者がいるはずだ」



 アスランの説明に、ティアンナはこの国が様々な種族が混在している事実を思い出す。それだけ巨大な国であり、それぞれに色んな風習があるのだろう。しかしここまで戦いに特化したものを見せつけられると、改めてトラヴィスと海や湖で接していなくて良かったと思った。



(ここはまるで、兵士や軍事力を育成している場のようだ……)



 始めは目に映るものが珍しく心躍らせていたが、よく考えてみれば国が管理し、様々な人間がこの場で剣技や水上戦の技術を磨いていることになる。娯楽としてこれだけ成功していれば、そこから上がる収益もかなりのものだろう。民を喜ばせ、国を潤し、軍事力の増強にもつながる。


 改めてティアンナはアスランという王が恐ろしくなった。



(本当に……この国との戦は無くなるのだろうか……?)



 皆が船上の戦に熱狂している中、ティアンナは冷静な目でアスランを見つめた。



──お前の望むものは手に入る。私がそうさせる──



(アスランは、私が望むものは手に入ると、そう言った。私が望むのは、両国の和平……だけど、彼は戦をしないとは言ってはいない)



 そんな考えに思い至り、ぶるりと身が震える。


 どんなにその言葉を信じたくとも、アスランがトラヴィスの王であることに変わりはない。こちらを欺き、言葉巧みに誘導して、戦を仕掛けようとしていても、おかしくはない。



(何故ここに連れて来たんだろう?単純にこちらを楽しませる為なのか、それとも何か理由があるのか……)



 ティアンナはアスランの考えが読めなくて、戸惑った。軍事的な側面を持つような娯楽施設。その強大な権力を見せつけられたようで、恐ろしくなってくる。 



(……決して油断してはいけない。ここは私の知らない異国の地。そしてアスランはその王なのだから)



 宮殿を襲ったナイル、そして何かを企んでいるようなアスラン。


 何かがこの地で大きく動き出そうとしている──


 熱狂が渦まく歓声の中、ティアンナの不安な心だけが、深く沈んでいった。



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