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薔薇騎士物語  作者: 雨音AKIRA
第1章 ラーデルス王国編 ~薔薇の姫君と男装の騎士~

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1章25話 ポワーグシャー家の兄たち

 ラーデルス王国との国境付近にある、ロヴァンス王国内最東の砦では、ポワーグシャー家の次男と三男が執務室で相まみえていた。


「まったく、うちの人間はどいつもこいつも面倒ばかりかけやがる」


 そうぼやいたのはポワーグシャー家の次男、グリムネン・ハント・ポワーグシャーである。


 美しい金色の柔らかい髪に、少したれ目の甘いマスクのグリムネンは、眉間にしわを寄せながらため息をついた。高身長の彼が白金のメイルに身を包むさまは、いかにも優男である。しかしその実なかなかの苦労性であり、また自他ともに厳しい一面がある。


 グリムネンは弱冠25歳にして、ロヴァンス王国騎士団第一師団の団長を務めている。キャルメ王女のラーデルス王国訪問に際して、あらかじめ国境警備の強化という名目で、一部の第一師団の騎士たちとともにこの砦に滞在していた。


 そんなグリムネンの愚痴をふふんと鼻で笑っているのは、ポワーグシャー家三男のジェデオン・ディアーブ・ポワーグシャーである。


 艶やかなブラウンの髪に、琥珀色のアーモンド形の目元が印象的で、笑うと少しやんちゃにみえる。グリムネンより少し背は低いが、それでも背は高いほうだ。今は普通の商人の恰好をしているが、その下には鍛え抜かれたしなやかな筋肉がある。


 三男のジェデオンは次男グリムネンの2つ年下で、まだ23歳である。表向きはロヴァンス王国騎士団、第7師団の団長で、その実態はスパイ活動を主とする特務師団の副長だ。


「まぁまぁ。うちの可愛い弟ががんばっているんだから、それを応援してあげるのが兄の務めでしょう?」


「そういってお前自身楽しんでいるだろ?」


  軽口をたたくジェデオンをひと睨みして、グリムネンは続ける。


「第一あいつは弟でなく、れっきとした妹だぞ。ティアンナを隣国についていかせるなんて、私はまだ納得していないんだからな」


 次男のグリムネンは憮然として腕を組み、石造りの床を睨みつけ不満をもらしている。


 彼は兄として幼い頃からティアンナの面倒をみて、また一緒に剣の修行に明け暮れていた。とはいえ、やはりティアンナは可愛い妹である。隣国に派遣されたとなっては、心配でしょうがないのが兄としての心中だ。


「そんなこといったら、あいつ怒るぞ。姫さんの護衛隊長として張り切っているからな。可愛い妹に嫌われてもいいのか?お兄さま?」


 対照的にニヤついた表情でからかう三男ジェデオン。


 ジェデオンもティアンナの事は心配ではあるが、彼女の実力は兄としてではなく、特務師団の副長として認めている。キャルメ王女の護衛に任ぜられていなければ、特務師団に欲しいと常々思っていた。

 

 グリムネンはひとつ大きくため息をつくと、話題を切り替えるように机の上に広げてある地図に両手をついた。


「国境沿いの森に、盗賊のアジトがあるんだな?」


 地図に手をつき、視線をそのままジェデオンに向ける。

 その様子に、ジェデオンは表情を引き締めた。


「そうだ。報告によると国境を越えて、ラーデルス王国側にいくつかアジトは点在している。どうやらうちの人間が一人、そこにいるようでね」


 ジェデオンが言う、「うちの人間」とは、ナイルの事である。すでにキャルメ王女の護衛隊に入って久しいが、ジェデオンにとっては、ナイルはいまだ特務の人間であった。


「そいつは敵に捕まっているのか?間抜けな特務もいたもんだな」


 グリムネンはからかうでもなく、まじめに率直な感想を言った。

 この言葉にジェデオンは少しむっとした表情をして反論する。


「馬鹿だね。あいつはわざと捕まっているんだよ。敢えて逃げないのは、まだやることがあるからだ」


 そんなもんかとグリムネンは素直に納得したが、ジェデオンの部下に対しては心配などかけらもしてないようだ。彼の心配の種はいつだって妹のことについてである。


「それにしても、他国の貴族の捜索に駆り出されるとは思わなかったぞ。よくラーデルス王国がうちの介入を許したな」


 グリムネンの言うことはもっともである。他国の軍事力を介入させるということがどういうことか。このことをよく思わない人間も多くいるだろう。


「まぁうちとしては失踪した人間のことより、姫君と可愛い妹の方が大事だからな。なんだかんだ理由をつけて、部隊を回せるのにこしたことはない」


 事実、王女達一行を取り囲む状況の悪さは、思っていたよりも深刻だった。事前に調査していた情報よりもずっと複雑で、いろいろな思惑が絡み合っているようだ。


 しかし王女は表向き、次期ラーデルス国王の妃として、現国王から承認されている身である。そのことが、今回の要請を認めさせた一因であろう。


「それでどうするつもりだ?ただ失踪者の捜索をするのが目的ってわけじゃないんだろう?」


 その言葉に琥珀色の目をキラリと光らせて、ジェデオンは口もとに笑みを浮かべた。


「牽制だよ。だからグリムネン兄さんがちょうどここにいてくれて助かったのさ」


 よくわからないといった渋い表情で、弟を見るグリムネン。


「目一杯豪華に着飾って、あちらさんへ乗り込むから。兄さんもそのつもりでいてくれよ」


 そういって悪戯っぽくウィンクをする。

 それを見て、ますます表情を曇らせる兄。

 そんな兄の様子をみた弟は、吹き出して声をあげて笑った。

 

 ひとしきり笑い終えると、機嫌を損ねてしまった兄にそっと耳打ちをする。


「ここだけの話だけど……」


 部屋には二人しかいないが、それでも誰にも聞かれないように、慎重に小声で極秘事項を伝える。


 その内容を聞くにつれて、グリムネンの目が大きく見開かれていく。事の重大さに動揺し、ヒヤリとした汗が首筋を伝うのを感じた。


 チラリと弟を見ると、真剣な表情のジェデオンと目が合う。どうやら弟の言っていることは、冗談ではないようだ。


 グリムネンはすぐに気を引き締めて、先ほどの提案に了承をした。

 

 表面上見える事象よりも、ずっと危険で重大な事態に陥っていることを知るのは、いまだ彼らだけであった。


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