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薔薇騎士物語  作者: 雨音AKIRA
第2章 トラヴィス王国編 ~砂漠の王者とロヴァンスの花嫁~

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2章36話 後悔と相容れぬ想い


 ティアンナの白い身体にアスランはその身をうずめた。ゆっくりとその柔肌を楽しむように味わっていく。甘美な誘惑は、彼の怒りを鎮めるのに十分だった。


 ようやく落ち着きを取り戻したアスランは、ティアンナにうずめていた半身を起こした。そしてその姿を見て驚きに固まる。



「……泣いて……いるのか?」



 ティアンナは静かに泣いていた。アスランの行為に抵抗することなく、ただじっと耐えていた。それは敵国の騎士ではなく、今にも壊れてしまいそうな小さな少女のようだった。


 ──胸に広がるのは深い後悔。


 怒りをぶつけるように彼女を抱こうとした。しかしその行為は過ちであったと。


 例え彼女が間諜として送り込まれ、その役目をただ健気に果たそうとしただけだとしても、ティアンナが必死に耐える姿はアスランの思考をかき乱した。

──彼女に喜びを与えられない自分に、無性に腹が立った。



 アスランはティアンナの身体を優しく抱きしめた。


 白い肩が小さく震えている。


 胸が軋むように痛んでいく。


 彼女はその身に騎士としての傷を多くつけながらも、男の欲望に対してどこまでも無垢なのだ。


──こんな形で奪ってはいけない。



「……すまなかった……もうしない。お前の心が私に向くまでは──」



 欲望のままに蹂躙することはできたはずだ。だがそんな気にはなれなかった。


 アスランはティアンナを放すと、その身にシーツをかけてやり、静かに部屋から出て行った。

 

 

「っ──……」 



 アスランから解放されてもティアンナは寝台に横たわったままだった。手で顔を覆い涙が収まるのをじっと待つ。


 長年泣いていなかったのに、自分の中の弱さを認めてからは、溢れる涙の止め方を忘れてしまったようだ。


 花嫁になるということの、本当の意味をわかっていなかった。


 アスランに感じたのは恐怖だった。


 身に着けているものを剥がされ、押さえつけられ、肌をその舌が這った。


 頭ではその行為をわかったような気がしていた。


 でも心がついて行かなかった。


 アスランの腕の中で思い出したのはあの人の事──

 

 でも自分は別の男に抱かれなければいけない。


 愛しいあの人とは違う男に──


 その道を自分で選んでしまったことに、ティアンナはようやく気が付いた──





────────────────



 ティアンナの部屋から出てきたアスランは、激しい後悔を抱きながら自分の部屋へと戻った。



「まったく……困ったことだ──」



 額を手で押さえながら柔らかなクッションに身を預ける。先ほどのティアンナの姿が瞼をよぎり、アスランを責め立てていた。


 彼は今まで女性に対してこのような感情を抱いたことはなかった。適当に誘惑し、自分の思う様に動かせればいい。そんな風にしか思っていなかったのだ。



「まさかあんなにも無垢だとはな……」



 男社会の中で生きてきたであろうに、彼女はよほど大切にされていたのだろう。男女の色事に関しては全く経験が無いようだった。


 そういう女性を相手にしたことがないわけではない。しかしこのように心がかき乱されるというのは、初めての事だった。


 彼女に気持ちを入れ込みすぎてはいけない。焦らずにゆっくりと時間をかけていけばいい。



「ヒラブはいるか?」



 アスランは落ち着きを取り戻すと、従者の男を呼んだ。王に呼ばれてすぐにヒラブはやってきた。



「花嫁の餌に敵が食いついた。それと街中で死んだ男の事も調べろ」


「へい」



 ヒラブはアスランの言葉を受けてすぐに退出した。


 アスランは暫く一人部屋の中で考え込む。


 彼女の柔らかな肌の感触が、まだ手に残っていた。


 あんな風に恐怖に怯えて震える姿ではなく、羞恥と喜びに満ちた彼女の姿を見たかった。そしてそんな風に考える自分に驚く。


 ティアンナは自分が狙われていることに、とうに気が付いているようだ。だが何故狙われているのかはわからないのだろう。


──約束した通りロヴァンスの国王は、全ての情報を花嫁には告げていないのだ。


 ティアンナを花嫁に選んだのは、彼女が騎士であったからだ。


 自分の身を守ることのできる花嫁。


 敵をおびき寄せる為には、花嫁には危険が伴う。


 だからアスランは強い花嫁を選んだのだ。



──ロヴァンスの花嫁は囮──



 初めからそのつもりでいたはずなのに、その事実に胸が軋む。


 彼女が男に襲われたと聞いて、頭に血が上った。そう仕向けたのは自分なのだと、彼女に責められているような気がしたのだ。


 ──そしてそれは紛れもない事実だった。


 だから誤魔化すように、彼女に怒りをぶつけてしまった。いつもなら相手が泣き叫ぼうが、やめることはしない。


 自分は王だ──味方であれ敵であれ、相手には絶対的な服従を求める。だがティアンナに対しては、そんな姿は見たくないと思ってしまった。



 あの強い眼差しで自由に空を羽ばたく姿を見たい。


 そして自分の腕の中に戻ってきてその羽を休めてほしい。


 何よりも男として、彼女に心から求められたいと思った。



 アスランは自分の心をはっきりと自覚し、立ち上がる。もはやティアンナを使い捨ての囮にすることはできない。一刻も早く決着をつけ、彼女を自分の本当の花嫁にするのだ。


 その想いと共にアスランは部屋を出た──


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