表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
薔薇騎士物語  作者: 雨音AKIRA
第1章 ラーデルス王国編 ~薔薇の姫君と男装の騎士~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

105/319

1章105話 運命の輪2 鎮魂という名の罪

 リアドーネは馬を駆り、遠くからラーデルスの王城を眺めていた。退城の時に乗っていた馬車はすぐに降りて、王城へと引き返させた。


 自分の屋敷に戻るつもりは、もはやなかった。彼女は大きな罪を犯した。その罪が明るみに出れば、彼女の一族もタダでは済まないだろう。


 だがもう後戻りはできない。


 未来などはもう彼女の前にはなかった。


 このまま死を選ぶか、それとも……


 リアドーネは頭を振ってその考えを掻き消した。そして王城の方に背を向け、また馬を走らせた。


 何も考えたくなくて、馬をひたすらに走らせると、それまで晴れていた空が、突然曇ってきた。灰色を通り越して、黒い雲が頭上に集まり始めている。


 まるで彼女の心の様子を表しているようだ。


 もう一度だけ、そう思い、王城の方へ再び目を向ける。もはや王城の姿は小さくなり、今にも彼女の視界から消え去ろうとしていた。


 彼女は沈んだ瞳でそれを見やると、唇を噛み締めた。


 果たして自分のやったことは、本当に正しいことだったのだろうか?



――――ジワリとその瞳に涙が浮かんだ。



 ―――――――――――――――――


 サイラスが亡くなったと知らせを受けた、翌々日の午後。サイラスの母の実家である屋敷にて、ひっそりと彼の葬儀が行われた。リアドーネも王城から馬車を飛ばしてそれに参列した。


 その葬儀は、とても寂しいものだった。


 とても一国の王子の葬儀とは思えないものだった。


 国王からサイラス王子に対する責めなどは一切なく、ただ葬儀には出席できないとの書状だけが届いた。事情が事情であるだけに、仕方のないことだった。


 だが、実の父親さえ葬儀に出ないなど、サイラスが可哀そうだ。


 リアドーネは兄のように慕っていたサイラスを想って泣いた。


 彼が犯した罪は消えないけれど、リアドーネにとってはかけがえのない人だった。いなくなって初めて思う。

 

 サイラスの家族は誰もが皆口をつぐんでいた。彼のしたことを、もしかしたら知っていたのかもしれない。


 皆死んだように、暗い生気のない表情をしていた。


 ――――そしてリアドーネ自身も。


 まるで心が死んでしまったかのように、泣く以外の感情の表し方を忘れてしまったかのように……



 田舎の村の牧師が死者を送る鎮魂の言葉を紡いでいる。それを聴くのは彼の家族と、ごく一部の屋敷の人間達。他はリアドーネだけだった。


 そのことにまた悲しくなり、リアドーネの目は涙をとめどなく流し続ける。

 

 質素な式典が終わり、献花をしたのち、他の者たちは屋敷へと入っていった。

 


 ただリアドーネだけは、その場に残っていた。


 少しでもサイラスの側にいてあげたかった。


 すでに土は盛られており、棺すらも見えない。



「……サイラス……」



 その声が届かないと知っていても、その名を呼んでしまう。


 返事がないとわかっていても……





「貴女がサイラスの仇を取るべきよ」



 突然後ろから女の声がした。



「え……?」



 後ろをふり向くと、そこにはすらりとした茶色い髪の女がいた。


 艶やかな笑みを浮かべるその女は、どこかで見たことのあるような気がするが、思い出せない。


 リアドーネが彼女の姿を見つけると同時に、その女はリアドーネの前へと近づいてきた。



「貴女がどれだけサイラスを想っているか、サイラスがどれだけ貴女を想っていたか、私は知っているわ」



「!!」



 女の言葉に、今まで死人のようだったリアドーネの心が激しく反応した。


 リアドーネの灰色の瞳に、僅かに光が差す。


 女はその様子に満足そうに微笑むと、リアドーネに向けて優しい言葉を掛ける。


 彼女が欲しがっている言葉を……



「サイラスは貴女を巻き込みたくないと言っていた。でもね、彼の事を本当に想っている貴女なら、きっとサイラスの気持ちがわかるはずよって私は言ったの。サイラスは嬉しそうにしていたわ。……本当に貴女の事が好きだったのね、彼」



 女は悲し気な顔を一つ、リアドーネに向けると、サイラスがいかにリアドーネを想っていたのかを語り、そして続く言葉を言った。



「……だから貴女には聞いてほしいの。彼がどうしてこんな事をしてしまったかということを……」



 リアドーネは女の言葉を無防備な心で聞いていた。


 ただ、今は一つでも漏らさず、サイラスの事を聞きたい。


 彼の心を理解してあげたい。


 その一心だった。




――――そしてリアドーネは、サイラスを取り巻く真実を全て知った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
i386123 i528335
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ