7話
「もしもし、伊波ですが………………」
『私、修也さんの担当医の加瀬と申します。
修也さんの現状の報告と今後のことについてお話しさせて頂きたくお電話しました。ご主人にも聞いて頂きたいのですがお側におられますか?』
「ええ、ちょっと待ってくださいね。
あなた、あなた、修也の先生が話したいことがあるって言うの、一緒に聞いて。」
「わかった。」
近くの椅子に腰かけていた修也の父親は立ち上がり電話のすぐ近くまで来た。
「主人も来ましたわ。」
『それではスピーカーにして頂けますか?
大事なお話ですのでしっかりと聞いて頂きたいので。』
「大丈夫です、最近耳が遠くなったんでずっとスピーカーモードにしてるんですよ。」
『………そうですか。
それでは、現在の状況ですが、ただいま修也さんは大学卒業後から現在に至るまでの記憶の整理中で、それ以前の重要な教養や知識以外はすべて整理しました。
脳への負担率も大きく減り、この病気の安定期に入ったと言っても良い状況です。』
「じゃあ、修也は助かるんですか?」
『それはまだ言いきれません。』
喜びの声を上げたが横の夫は
「なぜだね?安定期に入ったんだろ?」
『この病気は安定期に入ってからの方が死亡率は高いんです。』
「どういうことなんですの?」
『物をなくした時に関連するものが思い出せるとそれに連なってどこに置いたか思い出せることってありませんか?』
「ああ、たまにありますよね。あなたも。」
「それがなんなんだね?」
『治療として修也さんの記憶は完全に消しているんですが、何かの拍子に消したはずの記憶が呼び起こされて、それをきっかけに忘れたことをすべて思いだし、脳への限界以上の負担がかかり、死亡する。
この現象を我々はフラッシュバックと呼んでいます。
この病気になった人の8割がこの症状で亡くなってます。
つまり、安定期に入った状態の方が死亡率が高くなるんです。』
「じゃあ、どうやって防げばいいんですか?」
『現在、専門の研究員が伊波さんの状態を観察しながら研究をしていますが、どのようなことからフラッシュバックが起こるかは個人差があります。
そのため、できるだけ過去の記憶を呼び覚ますようなことを修也さんに言わない、しないようにしてください。
あと、言いにくいことですが、フラッシュバックが起こった場合、対処が遅れれば命は助かりません。
病院で発症すればすぐにでも対処できますが自宅や修也さんの病気のことを知らされていない婚約者の前で急に倒れたりすれば命は助かりません。
いつ、その時が来るかはわからないので覚悟だけはしておいて下さい。』
「そんな……………」
修也の母が絶句した所で「ドサッ」と物が落ちる音がして二人が振り返ると放心状態の紗英が立っていた。
「…………紗英ちゃん、何で………………?」