2話
「ねぇ、病院どうだったの?」
とりあえず、幼少期の記憶を全部消して、両親には加瀬先生の方から電話で事情を説明してもらった。加瀬先生は婚約者である今、目の前で心配そうに僕の顔を覗きこんでいる守山紗英にも説明するべきだと言ったが、そうなれば彼女は僕の記憶を今すぐにすべて消そうというかもしれない。
紗英ならきっと『生きてればなんとかなる』と言い出しそうだ。
基本的にポジティブで、何かに迷っても悩んでも、そのうちなんとかなると考えている。
明るくて、優しい笑顔で『なんとかなる』と言われれば、そうなるかもしれないと思える。
そんな人だから一緒にいたいと思ってプロポーズもしたし、彼女のことだけは忘れたくないと思う。
質問に対する答えがないことに怒った紗英が詰めより
「どうだったの?」
「風邪だよ、風邪。
色んな検査したけど異常はなかったから、大丈夫だって先生言ってたよ。」
「それならいいけど……………………」
まだ心配そうな紗英に笑いかけて
「大丈夫だよ、免疫力を高めるリハビリみたいなのがあるらしくて、それを受ければ頭痛もなくなるだろうって言われたから暇なときにでも行ってみるよ。」
「何もないならそれで良いけど何かあったら言ってね。」
「わかってるよ。」
「あっ、そうだ、式の会場なんだけどね………………」
楽しそうに話す紗英を見て、僕は心の底から死ぬわけにはいかないと思った。