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透明人間F

私は透明人間だ。というか、いつでも姿を消したり現したりすることができる能力をもつものだ。私はこの能力を使って、人目を気にすることなく、自由気ままに暮らしている。

「よっと」

ビルとビルの間を飛び越え、私は街を見下ろした。今日は何をしようか。仕事か、路地裏の探索か、会社か学校に侵入するか。警察署にでも行ってみようか。

「まず、朝メシだな」

そう言って、頭をぽりぽりとかきながらあくびをする。行きつけの店までは少し遠いが、まあ仕方ない。

「行くぞっ」

気合を入れて、ぱっと走り出す。柵や障害物をひらひらとかわしながら次々とビルの隙間を飛び越え、道行く人たちを追い越して行く。小さい頃から建物の上を移動してきたから、地面を歩くより慣れていた。

目的の場所までついたら、スピードをゆるめ、隙間を覗き込む。よしよし、もう開店してるな。路地裏の怪しげな店の明かりがついているのを確認して、私はニヤリとして隙間に足を降ろした。室外機やパイプを足がかりにしてするすると降りていき、とんと着地する。コンコンとノックすると、少しして若い男の愚痴が聞こえた。

「ったく、いっつも開店直後に来るんだから……」

「いいじゃん、仕事仲間なんだから。愛想よくしてくれよこー君」

「こー君って呼ぶな」

私がにっと笑いながらドアを開け、カウンターにつくと、新人マスターのこー君は、ため息をつきながらサンドイッチを私の目の前に置いた。

「お、用意いいじゃん。作っといてくれたの?」

「オレの分と思ってたんだけど、なんか来そうな気がしたから余分にな」

「あんがとね」

ぱくりと一口かじる。ううむ、シャキシャキレタスとツナマヨが最高にあいますなぁ。

「今日は仕事してくわけ?」

「んー、暇だししてこうかな」

「その前にテーブル頼んだ」

「仕方ないな」

投げ付けられた雑巾を掴み、サンドイッチを頬張りながらテーブルをふく。ここは「喫茶 黒」。私の仕事場だ。幼い頃能力のせいで野犬に食い殺されたことになっている私は、もはやまともな仕事につけるはずもなく、移り住んだ先の街にあった、この薄暗く不気味な店で働かせてもらっている。といっても客は少なく、こー君はずっと店にいてくれるので、やりたいことがあったらいつでも暇を貰える。それでいつ来てもメシを食えるというのだから最高だ。

「ん、終わった」

最後のテーブルを拭き終え、こー君に雑巾を投げ返す。こー君はそれを手のひらで受け止め、雑巾はべしゃりとシンクに落ちた。

「んで、仕事は?」

カウンターに座りなおし、お気に入りのネックレスをいじりながらこー君に聞いた。

こー君はため息をつき、後ろにかけてあった黒板を親指で指した。

「一応ふたつ」

「ふむふむ、潜伏してる指名手配の拘束と誘拐された子供の奪還ねぇ。つまんないなぁ、マフィア潰しとかないわけ?」

「ねぇよ。とっとといけ」

「ちぇ〜」

私は口をとがらせた。能力を活かした仕事がしたくて警察に売り込んだはいいものの、いまいちぱっとしない仕事が多い。そりゃ表舞台に出たいとは思わないが、それにしたってつまらない。

こー君がぴっぴっと手をふると、私の目の前にぱっと小さなナイフが現れる。私は片手でそれを掴み、空いている手を頬に当てた。

「あら可愛い。今回はこれが核なのね」

「そうだよ。客がくれたんだ」

「じゃ頼むわ」

「いってらっしゃい」

その言葉と同時に透明人間になって、軽くジャンプをする。すると景色は一瞬で、喫茶店からとこかのホテルへ変わった。私と同じように、こー君にもワープという能力があった。無機物を核として、それに触れている人間を移動させるものだ。地球の裏側に行くのだって一瞬だ。とても効率的だし、旅行費もタダ。ありがたい。本人は0歳のころからおしゃぶりを核にしてどこにでも行っていたので、もう旅行は飽きたと言っているが。

※作中※

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