6話
晴天の草原を連なって歩く荷馬車と王族専用馬車とそれを取り囲む一行は王女マチルダの洗礼の儀の為に古代聖堂へと進んでいる
「うらやましいな~落とし子様は王女様と一緒の馬車か・・・」
「油断するなよ。いつ襲われるかわからないんだぞ」
「大丈夫だってこんな見晴らしがいいんだ敵が来ればすぐ気づくさ」
騎士たちが噂している落とし子ことカズマは縛られ猿ぐつわをされていた
「ぐむーぐむぐむぐむー」
「しょうがないわね。騒ぐんじゃないわよ」
王女マチルダはやれやれと言った感じで猿ぐつわを外した
「このクソ陰険女!ブス!とっととこの縄をほどけ!痛!」
カズマの頭を殴りつけた王女マチルダは言う
「逃げる気じゃないでしょうね」
「逃げるわけないだろ!ここの王都につながる一本道は盗賊の格好の標的だし人間を喰おうとオーガ、突然変異種のゴブリン、オークも出没してる危険な所だ。2年前にもAランク冒険者団がワイバーンの群れに襲われて全滅してるんだ。こんな所で油断するのはド素人だけだ」
馬車の外で騎士が背筋を伸ばす音が聞こえた
「そんなことよく知ってるわね」
マチルダは縄をほどきながら感心したように言う。彼女も色々な書物を読むがそれは王族として必要な知識についてでありカズマが言ったような事については知らなかった
「危険な目に遭いたくないからな、それにしてもきつく締めすぎだ体が痛いぞまったく」
「お父様からあなた宛てに手紙を預かってるのよ、ほら」
さらに不満を言おうとするカズマを遮って王からの手紙を手渡した
急いで書いたらしくそれはやや乱雑な文字で書かれていた
悪かったねこんな強引な手段をとって、ただ王族に特殊スキル所持者がいるということは国にとって非常に大きな事で王女となればなおさなのは聡明な君なら分かってくれていると思う
正直に言うと洗礼の儀で特殊スキルを授かった王族は先々代の王だけでこの話に関しては僕もそれほど重要だと思ってはいなかったんだけどリアンナの勘の件がある。彼女の勘の鋭さは恐ろしいほどの精度がある。本当に恐ろしい。もし浮気でもしたら、いや何でもない。
君がこの旅に乗り気でないのは初めから分かっていたがどうか了承して欲しい。
その代わりと言ってはなんだけどメッシュレン牧場に個人的な投資をすることを約束するよ。資金難で経営がピンチらしいんだ。もし倒産でもしたらブリリアントポークが食べれなくなるからね。
あと君のお気に入りのフラントを旅に同行させるしブリリアントポークの肉50kgを運ばせてるから少しでも旅を楽しんでほしい。
それじゃあマチルダをよろしく頼むよ。親愛なるカズマ
「メッシュレン牧場また資金難なのか」
メッシュレン牧場はカズマが大好きなブリリアントポークという豚を育てている唯一の牧場。
この豚は非常に変わった性質を持つ生き物で大きな尾をもっていて外敵に襲われるとこの尾を切り離して逃げ尾は何度でも再生させることができる。
この尾は柔らかな肉質と上質な油を持ち美食家たちからも絶賛されているの。カズマももちろん大好物ではあるがその育成は極端に難しく飼料の値段は高く病気にも非常に弱いので家族で育てているメッシュレン牧場では少ない数しか育てることが出来ない貴重な肉なのだ
(王には前にも投資してもらったしブリリアントポークが食べられなくなるのは痛すぎる。あの蕩けるような脂身本当に最高なんだよな)
カズマがブリリアントポークに思いを馳せている時、王女マチルダは昨夜の王の話を思い出していた
「落とし子様についてなんだけど・・・・」
落とし子に関しては国の極秘事項で王女であるマチルダでさえも伝えられていない
「彼は先々代が王だった時代にふらりと現れ冒険者として生活していたんだ。そんなある時に趣味を通じて王と出会った。2人は意気投合し彼は騎士として城で暮らすことになった」
「そうだったんですか」
「彼の名前はケン・ハセガワ。彼の性格に関しては先代の王の手記に詳しく書かれている。非常に怠け者で鍛錬、義務、努力は大嫌い」
「カズマそのままじゃないですか」
「美しい女性、美味い食べ物、酒、風呂が大好きで滅多に働こうとしなかった」
「最低じゃないですか」
「ただ国の危機には立ち上がり黒龍すらも退かせた」
「!!」
「しかしながら先代の王、つまりその当時は王子だが彼との相性は非常に悪かった。王子は騎士たるものは国のために全力で尽くすべきだと考えていて仮病を使って訓練をサボる彼を毛嫌いしていた」
「・・・・・・」
「そんな時この世界に魔王と呼ばれる存在が現れた。その力は凄まじく世界の三分の一の人間を殺したと言われている」
「洗礼の儀で特殊スキルを授かった王と彼も魔王へと立ち向かった。ケンは圧倒的な力で魔王の配下を次々と討伐していきついには魔王を倒した。しかし魔王の最後の一撃で王は死に彼は姿を消した」
「・・・・・」
「新しく王となった王子は何度も彼の捜索を行ったが彼の遺体を発見することはできなかった。死亡したというのが定説だったが遺体の一部すら見つからなかったことから元の世界に戻ったとも、王子が王となる事を嫌い姿を消したとも言われていた」
「・・・・・」
「先代の王の手記にはこう記されている・・・魔王討伐の時の彼の姿は忘れることが出来ない。父と共に仲間を鼓舞するその姿はまるで勇者のようだった。私は当時彼の事を父に寄生して生きている怠け者と考
えていたが、それは大きな間違いだった。彼の力をもってすれば金などいくらでも得ることが出来たのだ。彼は大らかで人から好かれた父と母と気があったから騎士となったのだ。そして私にはその大らかさ
が無かった」
「・・・・・」
「愚かな私はそんな簡単なことに気づくのに長い年月を必要としてしまった。私は国のために命を賭して戦ってくれた彼にした若いころの自分の行為を悔やんでいる。私の子孫たちがもし再び落とし子様と出会
う事がありその人物が善なる者であった場合はどうか無下に扱わないでほしい。たとえその人物に特別な力が無かったとしてもだ。それが私の願いだ」
「だからお父様とお母様は彼に目をかけているんですね」
「それだけじゃない。彼にも特別な力があるんだ」
マチルダは驚き目を見開いた