17、魔眼
ごそごそ、ごそごそ
「ん!--ん!」
「あら、起きたみたいね」
「そうですね。まずは話を聞いてみましょうか」
しれっと付けていた猿ぐつわを取って話しかける。
「こんにちは。お兄さんお名前は?」
「・・・・・・ミックだ」
「そう。私の名前は知ってるわよね。さっそくだけど、どこから送られてきたか、
何が目的か、おしえてちょうだい」
「・・・・・・」
「やはり、簡単には教えてくれないか・・・」
「・・・・」
このままではらちが明かないので、さっそくスラ子に言われた通りにしてみる。
(まず、ミックの顔を両手で挟んで、俯いている顔をこっち向かせる)
俯いていた顔がアルテミアの方に向かされる。
向かされたミックは、五歳とはいえもうすでに美しいテミアに顔を手で挟まれて、
かなり動揺して顔が赤くなっている。
(それから、相手の目をじっと見つめる)
さっきまで泳ぎまくっていた目が見つめられた瞬間、もうすでに目線は
テミアの瞳に向かって一直線になっていた。
お互い見つめあって、大した時間もたたぬうちに、次第にミックの
薄緑色の瞳が、とろん、としてくる。
「そろそろいいでしょう」
いい感じになった。と判断したスラ子が声をかける。
「そう? これ、なにが起きたの?」
「彼の、状態異常を鑑定してみてください」
「そんなピンポイントに鑑定できるの?」
「鑑定する範囲を指定すれば出来ます。今回は状態異常鑑定ですね」
「分かったやってみる。『状態異常鑑定』」
さっそくミックに向けて鑑定を使ってみる。
状態異常
魅了の魔眼(弱)
「この人、魅了になってるわ。なんでなってるのか分からないけど!」
「前々から思っていましたが、やはり魔眼でしたか」
「魔眼? 魔眼ってなに?」
「その前に、こちらをご覧下さい」
そう言って、スラ子は空間収納にしまってあったものを取り出す。
「これって、鏡じゃない。これがどうしたの?」
取り出した物は、中くらいの顔の全体が映せるぐらいの鏡だった。
「マスタの目のところをよくご覧ください」
「目? とくに変わったところはないと思うけど・・・・
あ! 左右で少し色が変わってる!」
そう。前までは両方とも、綺麗な金色だったのに対して今は、
左目が少し赤みがかった金色になっていたのだ。
「オッドアイって言うやつよね。この赤みがかっているのが魔眼なの?」
「なんでそうなるんですか。オッドアイのほうですよ。この世界では
オッドアイの四分の一ぐらいが、魔眼持ちになります。魔眼はステータスに
記載されません。ですので、目の色が両方似た色になると、きづかずに
一生を過ごす方もいらっしゃるようです」
「ふ~ん。大体分かるけど、私の魔眼はどんな効果があるの?」
「マスタの魔眼は【魅了強化の魔眼】ですね。魅了の効果こそ薄いですが、
魅了した者の全ステータスを強化する。というかなり強力な魔眼です」
「あれ? でもミックは強化されてなかったわよ」
「それは、まだ発動したばかりで、効果弱いからだと推測できます」
「精鋭っぽいのに、効果が弱い魔眼によくかかったわね、彼」
「心の中では、職場に不満を持っていたのでしょう。そんな奴を送って来るなと言いたいですが、
まあ、いいでしょう」
「それで? さっきから、ほったらかしているけどどうするの?」
「そうですね。無理やり従わせるのは得策ではないので慰めてみましょう。
職場の不満を聞いてやれば、きっと簡単に落ちるでしょう」
「スラ子って時々すごいこと言うよね。五歳児が二十代後半の男を慰めるって
どんな画面よ・・・。まあ、なにも思いつかないからやるけど・・・」
意を決して、ミックに近づく。
「お兄ちゃん、どうしたの? 誰かにいじめられたの?」
これまでにないぐらいに、猫なで声で聞いてみるテミア。
「うわあああん、おねえちゃああん! 上司がいじわるするんだよおぉ」
(お姉ちゃんて)
「ああ、よしよしもう大丈夫だよ。お姉ちゃんが護ってあげるからね。
もう、前のところには戻らなくてもいいんだよ」
「うう、いいの? もういじめられずに済むの?」
「そうだよ。もうあなたをいじめる人がいるお仕事何てやめて、お姉ちゃんの
下に就くって約束しよ。お友達も連れてきていいから」
「うんそうする。ボク、お姉ちゃんの下に就くよ!」
「それは良かった。それじゃあ、とりあえず今日は疲れたでしょう? ひと眠りしなさい」
「うん、おやすみ、お姉ちゃん!」
zzzzzz
(寝るの早!)
「ふぃー何とかなったわ」
「流石はマスターです。完璧でした」
「・・・・今の見ていてどう思った? 私への評価は置いて」
「・・・そうですね。もし声だけ聞いていたら、なんらおかしいことはなかったと思います。
声だけならですが」
「見ながらだとどう思った?」
「そうですね。狂気を感じました。マスターはまだ前世があるのでいいんですが、
彼は、完全に狂気的でしたね。縛られてましたし」
「やっぱりそう思った?」
「ええ思いました」
「…私決めたわ。もうこの作戦しないわ。封印決定ね」
「そうですか。いい作戦だと思いましたが、しかたありません
また彼が起きるまで、お茶でもしますか」
「そうね、彼の拘束を解いてももう大丈夫だろうから、解いてから
お茶にしましょう」
ミックは拘束を解いて適当なところに寝かせておく。
そして、本日二度目のお茶会が始まったのだった。
ホントは、今回で終わらせて、次の章に行く予定だったのですが
予想以上に長くなりそうなのでこれで一区切ります




