買い物と一緒に服をねだる①
陽光の眩しさで瞼を擦りながら目が覚めた。
良質なベッドで熟睡することができ、高い買い物だったが上等な寝具を購入したのは正解だったようだ。
仕事中はろくに眠ることができなかったし、その気になれば立ったまま眠ることが可能だが、身体に負荷はかかり、疲労がとれた気がしない。
何時になったのかと時計を見ると針がちょうど正午の位置をさしていた。
完全に寝坊したとため息をつくと、寝癖で少しはねた黒髪を掻きながらベッドから起き上がり、リビングへ向かうとティアがソファに座ってテレビを見ながらくつろいでいる。
「おはようございます」
「...おはよう」
こっちに気が付くと挨拶をしてきた。
雰囲気からして機嫌は悪くはないようだ。
「あー...悪い。寝過ごした」
「気持ちよさそうに眠ってましたよ。お疲れの様でしたから、起こすのも悪いかなと思って」
どうやら起こそうとはしてくれたみたいだ。あれ...部屋の鍵をかけてたんだが、どうやって入ったんだ?...深く考えるのはやめよう。
「すぐに支度をするから、もう少し待っててくれ」
準備をするために一旦自室に戻ることにした。
「それじゃ、行こうか」
寝癖を直して着替え、黒のロングカーディガンを羽織ると玄関の扉を開けて外に出た。
日中なのに道に人通りが少なく感じるが、この場所が表通りから少し外れた所にあるからだろう。
ティアを引き取った時、以前住んでたアパートだと2人暮らしには狭すぎたので、3階建ての小さなビルを安く買い取り、現住まいとして使っている。
欠伸をしながら歩く俺の2、3歩後ろから鼻歌を歌いながら上機嫌でティアがついてくる。
「そんなに嬉しいのか?」
「だって久しぶりに二人でお出掛けですよ!楽しみでなかなか眠れなかったんですから」
「子供か」
そんなたわいもない話をしながら繁華街にあるショッピングモールへと入って行く。
「煉さんは何を買いにきたんです?」
「食材や日用品...冷蔵庫の中が空っぽだった。ティアは服だったな」
「はい!じゃあ先に服をさがしましょう。一緒に選んで下さいね」
てっきり服はティアだけで見に行くと思っていたが、無理矢理腕を掴まれると強引に服売場へと連れていかれる。
「これなんかもいいですね」
様々な服を手にとってはじっくりと吟味をし、服を体に当ててこちらを振り返った。
「どうですか煉さん?」
「似合っている」
「もう!さっきからそればかりじゃないですか」
不機嫌そうにティアが頬を膨らましては服を戻しに行ってしまう。
別に適当に言っている訳ではなく、ティアは顔も整っていてスタイルも良いから、何を着ても似合ってしまうのだ。
「あら、ティア?」
新しい服を手に取って見ていると、背後から名前を呼ばれ、振り替えった先にエリスが立っている。
「奇遇ね。服を買いに来たの?」
「エリス姉さん!あの、昨日着てたのがダメになったので新しいのを...」
キラッと目を輝かせたエリスがティアの両手を握った。
「なら私が一緒に良いものを選んであげるわ」
「そ、その...せっかくですけど、服は煉さんに選んでもらおうと」
「煉さん?」
こっちの存在に気が付くと、慌ててエリスが近寄って深く頭を下げた。
「よっ、エリス。ティアがいつも世話になってるな」
「い、いえ...そんなお世話だなんて。むしろ私が未熟なせいであの子たちを危険に巻き込んだりで..」
緊張しているのか、いつもの落ち着きのあるエリスがしどろもどろになる。
「お前はしっかりやってると思うよ。むしろティアが単独で暴走して迷惑かけてないか...」
ティアの戦闘時の問題はよく耳に入ってくるので心配で仕方ない。
本来なら魔払いとは無縁の生活をさせたかったのだが...
「そうだエリス。さっきお前が言ったように、ティアの服を見てやってくれないか?」
「いいんですか!?」
女性のファッションセンスに疎い自分が見るよりは、同性のエリスに見てもらうほうが的確だろう。
「という訳でティア。エリスに似合うのを選んでもらえ」
「や、約束が違いますよ!」
駄々をこねるように反論するが、エリスに手を引かれ、別の売場へ移動していった。
さて、食材の買い出しをしに行くか。
戻る頃には決まってるだろう。