恩人が帰宅
急いで家に帰宅したティアは、まず一目散に脱衣所へと向かった。
着ていたものを脱いで無造作に籠に放ると、バスルームに入り、熱いシャワーを浴び始めた。
髪にたっぷりとかかっていた血は洗い流されていくが、匂いがなかなかとれず、シャンプーとボディーソープを使って身体中をくまなく洗い流してからようやくシャワーを止める。
体を拭きながら改めて服をみるが、洗ってもこの血と匂いはもう落ちないだろう。
新しい服を用意しておかなないとと思いつつ、乾燥機に放り込んであった部屋着を取り出して着込む。
「よし、ささっと作っちゃいましょう」
まだ誰も帰ってないのを確かめてからティアは台所へと向かっていった。
......状況を振り替えってみる。
任務を終わらし、帰り際、たまたま一緒になった遥斗と他愛もない話をしてから仕事終了の報告をして、数日ぶりに家へ帰ってきた。
ドアを開けて家の中に入った瞬間、なぜか天井を眺め床に倒れている自分がいた。
「...ただいま、ティア」
「おかえりなさい、煉さん!」
自分の腹の上でしがみついたティアがにこやかに笑う。
ドアを開けたと同時に飛び付いてきたティアを受け止められずに、そのまま後ろに倒れこんでしまったようだ。
「悪い、しばらく家を空けといて…あと退いてもらっていいか?」
「ひゃっ!?す、すみません。今日帰って来るって聞いたので嬉しくてつい…」
上から飛び退き、頬を染めながら嬉しそうにティアが答える。
「任務お疲れ様でした。ご飯の用意してありますけど召し上がります?」
「おっ、ありがたい!腹減ってたんだよ」
奥から食欲をそそる良い匂いが漂ってくる。
立ち上がってティアの後について行った。
「ど、どうですかお味の方は?」
「んっ?旨いぞ。よくできてる」
緊張しながら味の感想を尋ねてくるティアに、ご飯を頬張りながら素直に思ったことを伝える。
食卓にはご飯、焼き魚、味噌汁、漬物、サラダと健康によさそうな和食が置かれている。
「俺の留守中は問題はなかったか?」
「はい。任務で多少ピンチになったりとかはしましたけど…」
ピタッと箸をとめ、茶碗を卓に置いてティアの方を向く。
「ティア、お前は悪魔相手だと異常に高揚して周りが見えなくなるとこがある」
普段の性格からは想像も出来ないくらい、冷酷で残虐性が増してしまうティアを初めて見たときは目を疑ったものだ。
他の奴なんか引いていたしな…
「そんな戦い方だといつか自分だけじゃなく、他の誰かが死ぬことになるぞ」
「すみません…」
「お前は確実に強くなってるんだ。焦らずにもう少し周囲に気を配れ」
少し言い過ぎたかと思い、沈んだ顔をしているティアの頭を手を置いて優しく撫でてやると、緊張が解けて嬉しそうに目を細めていた。
「それに前から言うようにティアが無理して戦うことはないぞ?悪魔は魔払いの連中と俺で倒すし…」
「ダメですっ!」
ティアが身をのりだし、両手を卓に叩きつけた。
先程と一変して瞳からは憎悪が宿っていた。
「私ばかり守られて戦わないなんて絶対に嫌です。今みたいに力があればあの時、村のみんなやお母さんを救えた…」
両手を強く握りしめ、忌まわしき過去を思いだす。
「今みたいに戦っていればきっといつかあの悪魔に辿り着くと思うんです。みんなの仇の…火の翼を持つ悪魔を…」
「…おい、ティア」
「見つけたら手足をバラバラにして動けなくしてあげます。それからあの綺麗な翼ももぎ取って、みんなの恨みの分をだけ斬りつけてから最後はお母さんと同じように胸を貫いて心臓をえぐり…」
狂気で艶やかな笑みを浮かべながら想像に浸るティアの両肩を掴むと、ハッと我にかえると激しく動揺し始めた。
「え…あっ、すみません、私…その…」
正気に戻ったティアを確認して安心すると、一息ついて椅子に座り直す。
「しばらくこっちに廻ってくる任務もなさそうだったし、ゆっくり休んだらどうだ」
「そ、そうします…」
「そうだ、なんなら明日…ってももう今日か、一緒に買い物にでも出掛けるか?」
「ほ、本当ですか!?」
ガタンとまた身をのりだし、目を輝かせながらティアが尋ねた。
「あ、あぁ…俺もしばらく暇になったからな」
「私ちょうど新しい服を買いたいなぁと思ってたんですよ。あっ、もうこんな時間じゃないですか。早く寝ないと明日に差し支えますよね?私はもうお休みしますね」
鼻歌を歌いながらリビングを出ようとした所で、ティアが振り替えっておやすみなさいと言って自室へ向かっていった。
まぁ、数日家を空けて構ってやれなかったからな…ちょっとは甘やかしてやるか。
味噌汁を啜りながら自分も早めに寝ないとなと思いつつ、明日はどこに行こうかと考えた。