魔女の師が助けに来た
奥から歩いて来た男はティアたちとは対象の白いコートを纏い、頭はフードですっぽりと被っていて顔は見えなかったが異形の者を前にして、特に気にした様子もなく近づいてくる。
「おい、なんだ貴様?」
悪魔が叫ぶと男は足を止め、改めて周りを見回して状況を確認する。
「ふむふむ。なるほど」
フードの奥から鋭い眼光が覗き、それに触手状の悪魔は気圧された。
「触手。いいよね、触手プレイ。気の強そうな女性を拘束して屈服するまで非道の限りを尽くし、男のS心を揺すり支配欲を満たす。...悪くない。実に悪くないよこの絵は」
突拍子もないことをべらべらと喋りだし、あまりのことに
悪魔やエリスは呆気にとられてしまった。
「────まあだからといって僕はけしてリョナとかで興奮するような危ない奴とは違っ...」
「とりあえず死んで黙ってな」
これ以上放っておくと更に長々と語りそうなので、無数の槍状の触手を男へと伸ばした。
「まだ喋ってる途中じゃないか...よっと!」
後方転回して触手を避けると、着地と同時に腰に下げていたホルスターから二丁拳銃を引き抜くと引き金を引く。
弾は触手へと命中するが、たいした傷を負わせず、触手はそのまま男を狙って迫る。
「ありゃ?そんなに効いてない」
「なんだこれは?小娘たちのほうがまだましだ!」
触手の追撃を避けつつ、銃を撃ち続けていたが効果がないと判断すると撃つのを止めると新しいマガジンを装填した。
「その程度は効かんと言っている!」
「うん。だから効きそうな弾でやらせてもらうよ」
そう言いながら男は再び銃を連射する。
すると触手に弾が着弾した瞬間、粉々の肉片となって炸裂した。
「なっ...!たかが人間の銃器ごときに!?」
「さっきのも一応は対魔用の弾なんだけど、連射性を重視した威力の弱いやつでね。で、今撃ったのがそれよりも威力を倍以上にあげた弾なんだ。ただその分引き金引くのは重いし、命中率も連射性も下がるけど」
銃をクルクルと回しながら悪魔の疑問に回答すると触手に向けて銃口を定めた。
「まぁ、僕が扱う分には問題ないからね」
連射や命中が落ちると言った割りには、マシンガン並みの速度で引き金が絞られ、無数の弾丸が吐き出される。
「それと気に入らないことが一つある。僕の可愛い教え子たちに何してくれてんだ、あぁ!」
男が怒声をあげて銃を乱射する。
ここまでのわずか数秒で触手たちは単なる肉塊へとなりつつあった。
「ばっ!?こ...んな、魔女でもない、人間に...」
弾を撃ち尽くす頃には、触手は細々と散って、ティアたちを縛っていた触手をも的確に破壊していた。
銃を華麗に回し、ホルスターに仕舞うと拘束が解け、地面にへたり込んでいるティアたちに近寄り被っていたフードを脱ぐと肩口まで伸びた金髪を後ろで縛り、銀色の瞳をした優男風の男が素顔を晒した。
「大丈夫?この悪魔を追ってたんだけど、まさか君たちと戦闘になってたなんてね」
「貴方は、遥斗さん...ありがとうございます。本当に助かりました」
遥斗と呼ばれた男は、エリスに手を差し伸べ、それに捕まって立ち上がると礼を言った。
すると思い出したようにフィリアとティアの元に駆け寄る。
「ティア!フィリア!」
「エリス...姉さん?あっ、フィリアちゃんは!?」
呆然としていたティアだったが、エリスの呼び掛けによりハッとなり、自分たちよりも酷い扱いを受けていたフィリアに目をやる。
すぐ隣では、瞳は虚ろで弱々しく呼吸をしながらぐったりとフィリアが横たわっていた。
「ちょっとまずい...エリス、君の能力を使って貰えないかな?」
「言われなくても!」
フィリアの状態を見て、遥斗がエリスに言うや否やエリスが自らの手首を剣で切る。
滴り落ちる血を口に含むとそれを口移しでフィリアに飲ませて嚥下させる。
「んっ!?んんむっ!」
やがてフィリアの瞳に生気が戻り、意識を取り戻すが、現状が理解出来ずに藻掻きだす。
そんなことは気にしないばかりにエリスはフェリアの唇をひとしきり堪能すると満足気に唇を離した。
「ふぅ...ふふっ、ご馳走さまフィリア。体の調子はどう?」
「エ、エリスお姉ちゃん...あれ?私...」
「フィリアちゃん!」
ティアが目に涙を滲ませながらフィリアに抱きく。
「よかった...無事で...ひぐっ...」
さらにエリスが二人を包み込むように抱き締めた。
「ごめんなさい二人とも。油断して貴女達までに危険な目にあわせてしまって...」
「姉さんのせいじゃありません!私達だって倒したものばかりと...」
「三人とも」
遥斗が後ろから優しく声をかけた。
「さっきも言ったけどあそこまでバラバラにしたら普通は死んでるはずだよ。エリスの判断は間違ってなかったし、相手が悪かったんだよ」
「遥斗さん!?どうしてここに?」
フィリアとティアが遥斗の存在に気付き、同時に叫んだ。
「急な指令であの悪魔を追ってたんだ。結構厄介な奴だから三人が苦戦してもしょうがないよ。まぁ、頭や心臓を破壊したのに生きていたということは...」
急に銃を引き抜くと肉片の一部に向かって発砲した。
「こういうタイプは心臓とは別に核を持ってたりするんだよね」
撃った肉片から小さく赤い結晶が飛び出した。
その結晶にもう一発撃って粉々に砕くと、周りに散っていた肉片が一斉に溶けて消失した。
「はい、これで僕の任務は完了。さてと...これで本部に戻ってようやく帰れるよ。君らはどうするの?」
「私も本部へ戻ります。報告に行く途中ですし、フィリアとティアは...」
「もちろん私も行くよ!エリスお姉ちゃんのおかげでもう良くなったから。フィリアちゃんは...帰って体を洗ったほうが...」
「確かに、この中で見た目が一番悲惨なのはティアちゃんかな」
まじまじと血塗れのティアを見ながら遥斗も賛成する。
「......お言葉に甘えさせてもらいます」
元は自分にかかった返り血で悪魔を呼び寄せたものなので、これ以上このままでいるのはまずい。
エリスとフィリアに謝ってから後のことをお願いし、遥斗にお礼を言って家に帰ろうとした時だ。
「あ、そうだティアちゃん」
遥斗に呼び止められてティアが振り返る。
「ここに来る前まで一緒だったんだけどね。今日、煉も戻ってくるよ」
「っ!?ありがとうございます!」
踵を返すと嬉しいそうにフィリアは家へと駆けていった。