油断は大敵
「はあっ!」
「ぐお!」
悪魔にむかいエリスが剣を一閃させ、右腕を斬り落とした。
続けて首を狙って斬りかかるが、寸でのとこで悪魔が避けると無事な方の腕をエリスめがけて降りおろされるがうまく受け流し、そのまま背後に回って一太刀浴びせた。
追撃をしようと踏みだすが顔面に悪魔の拳が突きだされる。
とっさに剣を盾にするが予想以上の衝撃に勢いよく弾き跳ばされてしまった。
「エリスお姉ちゃん!」
フィリアが双剣を振りかぶって悪魔に飛びかかり、頭上からティアが襲いかかる。
ティアの攻撃を避け、反撃しようとした瞬間、悪魔の左腕になにかが絡みつく。
「はい、捕まえた」
エリスの長剣の刀身が節々に分かれ、鞭の様に伸びて悪魔の腕を拘束する。
「エリスお姉ちゃん、ナイス!」
フィリアが双剣を横に薙いで残った方の片腕も斬り落とし、ここぞとばかりにエリスの関節剣とティアの連撃が悪魔に迫るが、斬られた肘の先から軟体生物状の無数の触手が生えて二人の攻撃を弾いた。
「うわぁ、気持ちわるい...」
「ようやく正体を現したみたいね」
「貴様ら、嬲りに嬲って俺専用の奴隷にさせてくれる!」
悪魔の背中から大量の触手が飛び出るとティアたちめがけて向かってくる。
しかし届く目前で、ティアの放った重力波により地面へと押しつぶされる。
「ずいぶん低俗で悪趣味。悪魔ってそんな考えしか出来ないんですか?」
忌々しげに言うと戦斧を構え直し、悪魔へと斬り込みにかかる。
攻撃にかかるティアに対し、悪魔がふと笑みを浮かべると腹部から先端の鋭く尖った触手が飛び出しティアの心臓部を狙う。
攻撃することに集中しすぎ、回避も防御も間に合いそうにない。
「ティアちゃん、また一人で攻めすぎだよ」
触手が胸に到達する一歩手前でバラバラになり、悪魔は両腕の触手をティアに伸ばすが、まるで見えない刃で斬られたかのように目前で四散した。
後ろに目をやると、フィリアの周りを囲むように風が渦巻いている。
「さすがに危なかったです。助かりましたフィリアちゃん」
「そう思うなら無茶しないでよ」
フィリアが双剣に魔力を集中して纏わせると悪魔に向け剣を振るうと疾風の斬撃となって刃から放たれた。
「ぐおっ!」
切断された触手の断面から新たな触手が生えるが、それを上回る速度で風の刃が次々と切り裂き、再生のスピードが追いつかない。
その隙にティアの放った重力波により悪魔の動きを完全に封じると、エリスの伸ばした関節剣が獲物を捕らえた蛇のように悪魔の全身へ巻きついた。
「はい、これでお仕舞いよ」
そう言って剣を引くと、悪魔の全身を締め上げ大量の血飛沫が飛び散った。
もはや原形がなんだったのかわからない程に細切れにされ、無惨に肉片が散乱している。
「ふぅ...手強かったけどなんとか倒せたね。やっぱりチームワークは大事だよ」
双剣を腰の後ろの鞘に納めてフィリアが呟いた。
「予定外だったけど無事終了ね。処理班に連絡して片付けておいてもらわないと。あ、それからティア」
「は、ふぁい!?」
「さっきに言ったこと...忘れてないわよね?」
気が抜けて拍子抜けした返事をするティアに、エリスがニコリと笑いかけた。
罰という名目で一緒にお風呂に入って身体を洗ってくれるというものだったはずだ。
「あ、あの私、了承したとは一言も...」
「あら、罰はなんでも受けるんじゃなかったかしら?拒否権はないわよ」
言い逃れできず困っているティアを見ながら楽しげに目を細める。
エリスは姉のように慕う好きな女性だが、異常な程にスキンシップが激しいとこが少し苦手であった。
「フフッ、ごめんなさい。少し意地悪し過ぎたわ。しつこくて嫌われちゃったかしら?」
「き、嫌いになんてならないです!ただ、エリス姉さん身体を洗ってくれる時、手つきがその、いやらしいというか...」
「あーもう!どうして貴女はこんなに可愛い反応してくれるのかしら?」
恥ずかしげに頬を赤らめて言うティアを抱きしめる。
そんな様子に呆れた感じでフィリアがこちらに寄ってきた。
「二人ともそろそろ行こうよ。報告することがまた増え...っ!?」
フィリアが急に鋭い痛みを感じると脇腹をなにかが貫いて血が滲み出ていた。
よく見ると最初に切り落としたはずの悪魔の腕から触手が伸びてフィリアの脇腹を突き刺していた。
「フィリアちゃん!?」
咄嗟に武器を抜こうとするが、その前に手足になにかが巻きついて二人の動きを封じた。
先ほどバラバラにした悪魔の肉片や血溜まりから無数の触手が生えだし、この場を逃げられないよううめつくしている。
「そんな、心臓や脳は完全に破壊したのに...」
「このぐらいで刻まれたぐらいじゃ死ななくてねぇ」
エリスの疑問に触手から答えが発せられた。
「さあ、お待ちかねの魔女狩りの始まりと行こうか!」
触手が三人の手足を縛り、宙吊りする形にに拘束した。
いくら力を込めても抜け出せず、それならばとティアが能力を使おうと魔力を集中させようとするが、そのたび触手が強く締め付けてきて、上手く操ることが出来なかった。
「まずはこの女から始めるとするか」
悪魔は傷を負ったフィリアを標的にすると、痛ぶるように傷口を触手で弄りだし、痛みに叫び声をあげる間もなくフィリアの首元に触手が絡み締め付ける。
まともに呼吸することもできず、更には傷口から激痛が走り、フィリアの意識は朦朧とし身体を痙攣させていた。
「かっ!?あっ...はっ!」
そもそも魔女狩りとは魔女の自我を奪い、本来の命令に忠実な駒とするのが目的だ。
その為の手段とは何か。
暴力に凌辱...要は魔女を絶望させて墜としてしまえばいい。
「やっ、やめて...」
ティアが唇を震わせながら呟き、その瞳からは先ほどまでと違い恐怖に染まっていた。
「みっ、みんなが...お母さんがっ!?」
力なくうなだれたフィリアを見て、過去の忌まわしき光景と重なり、取り乱して声を荒げた。
「ティア!だめ、このままじゃ貴女まで絶望するわよ!」
エリスが叫ぶが、パニック状態を起こしたティアにその言葉は届かない。
「いいねぇ。このまま仲良く絶望しちまいなよ!最後の最後で爪が甘かったようだなぁ」
エリスの胸に悪魔の言葉が突き刺さる。
再生出来ないようにとバラバラにしたことが裏目に出てしまい、妹分たちを苦しめる結果になってしまった。
「俺の勝ちだ。油断し隙をみせた貴様らの敗因だ!」
「その通り。でも常識が通用しない相手だからね。彼女たちが全部悪いとは言えないよ」
勝利を確信した悪魔に声がかかり、奥から一人の男が姿を表した。






