夜間飛行
「あのさー。ドラゴンのお肉って、美味しいらしいね」
寝転んでいる私の腕を枕にして夜空を見上げていたライカが、ふと思い出したように言った。何でも、昨日出会った旅人から聞いたのだとか。こんな感じの空だったから思い出した、と言う。
「私はドラゴンの肉など食したことがないので、美味しいらしいねと言われても、そうなのかとしか答えられない」
「そっか、そうなんだ。リューちゃんドラゴン食べないか。ああ、そっか、そりゃそうだな。リューちゃんの主食は、草とか魚とか、あと酒だもんな」
ライカが笑った。
「その言は間違ってはいないが、何かとげを感じた」
とげの理由は聞かずとも知っていた。初めて出会ったころ、ライカが私のために作った食事を、私がほとんど口にしなかったせいだ。私の手料理より、買ってきた酒樽が好きなのかと憤っていた。今もライカの作る料理は獣肉の料理ばかりだ。私の口に合わない。
空を見上げる体勢のまま、視線だけを移して、ライカはじっと私を見つめた。
「リューちゃんさー」
「何だ」
「この森から引っ越さない? なんなら今すぐ」
「なぜ? 旅人がドラゴン狩りにでもやってくるのか? ドラゴンを狩れる実力者であれば私も姿を隠すにこしたことはないが、その旅人は、この国ではドラゴン狩りが違法だと知らないのか?」
「密猟者みたいだよ」
「ふむ」
それは放置できない。
鱗を一枚剥がして、ふっとブレスを吹きかけ、魔力を込めて空へと放り投げた。軽い鳥の羽根のようにゆっくり落ちて、私の小さな分身は、やがてかすかに光を放ちながら羽ばたきはじめた。
「通報した?」
「通報した」
「リューちゃん、きれいだね。ドラゴンが星の海を泳いでいるみたいに見えるよ」
ライカは星空を見上げていた。同じものを見ようとしてみたが、私には、城の方角へ飛んで行く自分の分身が見えただけだった。
「ともに泳ぐか?」
ほんの出来心で問えば、ライカは目を輝かせて私を見た。分身の放つ光よりも、遠い遠い星の光よりも、美しい輝きだった。
はずれて飛んでいきそうなほどに何度も大きく首を振って、ライカは私の背によじ登りはじめた。ライカが位置に収まったことを確認して、体を起こす。つばさを羽ばたかせ、地面を蹴った。