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永倉探偵事務所  作者:
5/43

5 非歓迎客人

 結局、家の電話番を知子に、事務所の電話番をJ.J.に任せて、端野と双二郎は家を出た。

 端野の言うところによると、どうやら永倉は届け物を引き取りに来るように求めたらしい。

「何でJ.J.置いてきちゃったんですか」

 ハイエースの運転席で双二郎がぼやいた。

「Jちゃん? 何で?」

「俺の金髪と端野さんのアロハじゃ、社会的信用度ゼロでしょ」

「あ、格好のこと」

「その点、J.J.なら、喋らなきゃ何とかいけるから」

「いや、それが、Jちゃんは喋ってもモテるんだよ。この間、オネーちゃんのいる店に連れてったらえらい目だった。つかみだけのつもりだったのに、あのとぼけっぷりが可愛いとかいって、全部持ってかれちゃったんだもん」

「えっ、J.J.がお持ち帰りっ?」

「いや、まぁ、まさか、そこまでは。Jちゃん、そういうの興味ないし。けど、最後までトマトジュースだったのにさ。金出したのも俺だったのに……」

「あぁ、それは……」

 続ける言葉がなくて、双二郎はそれについては聞かなかったことにした。

「で、永倉さん、何て?」

 信号で止まったのを機に、双二郎は尋ねた。

「それがねぇ、」

 端野が暴風に荒らされた髪を整えながら答えた。

「人を保護して欲しいってさ」

「保護? 俺たちが?」

「そ。警察に届けちゃ駄目なんだって」

「うわぁ、ワケアリ?」

 嫌そうに双二郎は眉をしかめた。

「相手はヤクザじゃないでしょうね?」

「うーん、どうでしょ。菊ちゃんは何も言わなかったけど」

「そういうことはちゃんと確認して下さい。これ以上、事務所、壊されるわけにはいかないんだから。だいたい、」

 金髪にジャージにメタルフレームの黒メガネの双二郎はそこでいったん言葉を切った。ちなみに時刻は八時を間近に、夏とは言え台風接近中のために雲は張りつめ、日は落ちて空は真っ暗である。

 自分の格好を棚に上げて、双二郎はアロハシャツに健康サンダルの端野をまじまじと見つめた。

「こんな格好で行ったら、誘拐犯だと思われません?」

「だよねー」

 ファッションセンスについてはいつも言われていることなので、さほど動じてもいない様子で端野は同意を示した。

「それに、ボディーガードって探偵の仕事じゃないでしょ。俺、喧嘩弱いっすよ」

「うん。多分、うちで一番強いのは知ちゃんだろうね。見た目人形なのに、えいってやっちゃうからね」

「端野さんは歳だしねぇ。あ、J.J.はクレー射撃の経験あるけど」

「Jちゃんか……、うん、まぁ、最後の最後、万が一の、もう事務所ごと心中するしかないって時には、J.J.に射撃してもらうことにしましょ。その場合は、僕たちが警察に追われるか、警察も機能しないくらい日本が破壊されるか、どっちかだけは覚悟しとかないといけないよねぇ」

「うーん、でも、あいつ、何のかんの言ってても器用だから、腕はいいですよ?」

「腕だけじゃ、日本沈没は防げないんだな、Jちゃんの場合。……あっ、そこそこ、その道に入って。そこって、上矢町?」

「俺に聞かないで下さい」

 しかし、曲がった先には『上矢町三丁目問屋街』というでかでかとした看板が立っていた。さすがにこの時間、しかも台風が接近しているとあってはどの店も開いていない。無人のアーケードの中でばたばたと大安売りの旗が寂しくはためいていた。

 斜めに地面に突き刺さる雨の中、ハイエースは無躾なくらい真っ白なライトを灯して、通りを切り裂いた。

「ここですか?」

 問屋街は、トラックが止まりやすいようにアーケードのいたるところに車の退避スペースが設けられていた。そのひとつに真っ白なバンも滑りこむ。

 端野は地図を広げた。この近辺の住宅地図だ。

「えっと、この道を入ってきたから……。あー、そろそろ老眼鏡買わなあかんなぁ。双ちゃん、加納さん家ってどこ?」

「端野さん家は今いたとこでしょうが」

「俺ん家じゃないない。カ・ノ・ウさん」

「カノウって誰?」

 双二郎はルームライトを付けると、サングラスを外して地図を覗き込んだ。

 その時だ。

 ドンっ!!

 バンのドアに思いっきり何かが突っ込んできた。

 台風の風鳴りと雨の当たる断続的な破裂音で車内は密閉されていたとはいえ、明らかに異質な音として二人の耳に認識された。

「うおっ」

 風に飛ばされた看板か何かがぶつかってきた音だろうと思って振り返った二人の目の前で、後部座席のドアが開け放たれた。風と雨が凄じい勢いで吹きこんで、後ろに放りっぱなしになっていたコンビニの袋が狂った天使のように広い車内を駆けめぐった。

 あっけにとられて、端野はあんぐりと口を開けた。

 後部座席に女が滑りこんできた。

「ぅおっっそぉぉぉぉぉいいっ!!」

 水をかぶってきたかのように髪を濡れそぼらせている女が、乗り込みながら開口一番叫んだ。


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