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「わかってるって、森君の立場はさー」
全然わかっていない声色で、端野はソファに置いてあった新聞を取り上げた。それを自分の脇に差し込み、距離を詰める。
森は距離をとろうと上半身をそらした。
「こないだ森君の会社が「自殺」って発表した時任麻奈美ちゃんさぁ、無戸籍だったっしょ。実際には、母親からの申し立てで、弟ともども失踪宣告が出て、七年前に死んだことになってた。普通、行方不明になった娘たちの失踪宣告、そんなにすぐ申し立てられるもの? 親の心情的に無理じゃない?」
「相続か何かで、死亡証明が必要になったのでは? 失踪宣告は取り消しの申し立てをすれば、いいことですからね。実際、そのために弁護士と接触しようとしてたんですし」
「それがさぁ、失踪宣告出した後、お母さん帰国しちゃってたみたいなのよ。本人の同定できる人間がいなかったのよね、弁護士さんによると」
「弟は?」
「麻奈美ちゃんと一緒に行方不明になって、一緒に失踪宣告でてる。中国人の母親が日本の民法にそこまで詳しいかなぁ。ありていに言えばさ……」
ずいと体を引き寄せる。
「時任ブラザーズ、売られたんじゃない?」
耳元にヤニ臭い男の息がかかるのを嫌って、森は端野の顔を手で払いのけた。
目の前の通路をスーツ姿の男が通る。この店で見たことがある顔だ。彼は通り抜けざまに一瞬だけ森の顔を確認したが、横にひげ男が顔を近づけているのを認めると、驚くほどの速さで視線をそらした。
違うんだ、と焦る気持ちが胸をよぎる。しばらくはこの店によることはできないだろう。




