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「でも、お小遣いもらったんでしょ?」
アロハの男は痛いところを突いたような物言いで攻めてくるが、森にとっては瞬きひとつせず平静を保てる程度の威力しかない。その程度のことで脅しがきくとでも思っているのだろうか。
しかし……
「支援金はどなたからでも受け付けています。端野さんもいかがです?」
減らず口を返しながら、森は頭を巡らせていた。
防衛省のプール金問題のリーク元が自分であるということを、仮にもマスメディアの人間である北大路が漏らすわけがない。この手の問題は定期的にメディアに上がってくるもので、目新しくもない。期間が長いだけで金額もさほど大きくもない今回の件では、関わっている内部の人間も多く、情報元を特定する因子はほとんどないはずだ。
北大路の発行している雑誌は月刊で、発行日はまだ先。公になっていない以上、北大路自身から記事について聞いたか、原稿の段階のものを見たか、つい最近に直接の接触があったに違いない。それにしたって、情報元は慎重に秘匿してあるだろう。
推理できるとすれば、森のところにたどり着く根拠は二点。北大路と森の旧知のつながり。そして、防衛省にいる妹と対立している森の振る舞いを、当時警察官だった端野が覚えていたからだろう。
このへらへらとした小汚いアロハシャツの男が、時々ぞっとするような勘と空気を読まない行動力を発揮することを森は知っていた。
「ヤーン、さっき、大量の諭吉さんとお別れしてきたばかりなのにー」
端野はレザーのソファの上でくねくねと身をよじらせた。
とすれば、北大路に支払いを済ませてきたところか、と森は推察する。
コーヒーカップを手に取り、香りすら端野に分けることを惜しんで、森は口元に近づけた。
「で?」
「もー、とぼけちゃって。組織的な人身売買と戸籍の取引やってる団体さんの情報よ」
「情報よって何です?」
「情報おくれってこと」