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永倉探偵事務所  作者:
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場所的に官僚風の人間が利用することも多いため、プライベートソファは低いパーティションやエバーグリーンの観葉植物に目隠しされており、互いに視線が合わないようにランダムに配置されている。

 朝のこの時間には、やや濃いめの深入りコーヒーが提供される。

 夕方五時過ぎからは酒が提供されることになり、夜景とともにピアノ演奏が提供される。現在は、斜めの光の中に立ち尽くすピアノに反射した光が、天井のシャンデリアに波のような文様を描いていた。

 経済新聞片手にコーヒーに口をつけたところで、男は背後にあまりよくない気配が近づいてきたのを感じた。

「もぉぉりくぅん」

 中年の男の声がする。

 空気を読んで声色を潜めているつもりだろうが、明らかに目立つアロハシャツの裾が、場の空気を凍らせていることには気が付かないようだ。このフロアには10万を切るスーツを身に着けているものは誰もいないだろう。この場のどの人間のネクタイよりもこのアロハシャツがリーズナブルであることはすぐに分かった。

 アロハシャツの男の斜め後ろには、この店の従業員の一人、最も腕っぷしの強い男が控えている。森が一言発せば、彼がアロハシャツの男を店から追い出してくれるだろう。

 森は六秒ほど沈黙してから後、わざと大儀そうにコーヒーカップを置いて、控えていた従業員を下がらせた。

 アロハシャツの男は我が意を得たりというようににやにやと笑って、森の横に座った。

「やっほー、森君」

 森はアロハシャツの男との間に新聞を置いて、距離をとる。

 だいたい、この時間に自分がここにいることをどうして知ったのか。

「元気ぃ? メール見た?」

 学生のようなノリですり寄ってくる。

「端野さん……」

「はーい」

「……どうしてここに?」

「森君の跡をつけてきたのよ。探偵の基本スキルだからね」

 自宅は教えてはいないはずだが、どの段階からつけられていたのだろう。

「で? メールで頼んだ件、分かった?」

「申し訳ありませんが、公僕は副業してはいけないことになっているので」

「だから、ボランティアでいいのに」

「ただ働きはしないポリシーなので」

「北ちゃんに防衛省のプール金問題リークしたくせに」

「民間活力を利用した、正義感の発露です」

「でも、お小遣いもらったんでしょ?」


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