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JJは枕を抱え込んでシーツにくるまった。
男の一人暮らしに似合わず、シーツには糊がきいていて、真綿のような純白である。若干男くささのある部屋ではあるが、すべてが清潔に片付いており、使い勝手がいい。長年勤めているハウスキーパーが整えているのだろう、久しぶりに兄の部屋に泊まる双二郎にとってもくつろげるしつらえになっていた。
JJに至ってはまるで自宅のようなくつろぎようである。
もっとも双二郎はJJの自宅を知らなかった。彼が自宅という概念を解しているのかどうかも知らなかった。事務所か双二郎の部屋か、時々どこかに出かけたきり2,3日戻らないこともあるが、自宅というものを持っている様子がないからだ。
どうやら、彼はシーツにくるまって富士山麓行きのハイウェイバスの時間を調べているようだ。本気で富士山までたどり着くつもりらしい。
そのうちに、双二郎の携帯にも着信があった。
眠気と迷惑メールに対するスルースキルから着信に反応すらしなかったのだが、JJの「端野さんだよ」という一言で、携帯を探った。
なぜか本当に端野からで、「明日の朝に戻る」という連絡事項が、警察に対する遠回しかつ極めて辛辣な暴言と、諭吉さんという心の友を失った弱弱しい愚痴とで装飾されて、800文字を超える長文メールとなって届いていた。
「なぁ、なんで端野さんと分かったんだ?」
双二郎はスマホをいじっているJJに声をかけた。
JJは目線を上げると
「僕にも同じのが届いたから」
と、改行のない800字を双二郎のほうに見せた。
「あぁ……うん、そう……」
双二郎は携帯を放り投げて目を閉じた。疲れが限界に達したようだった。
「……明日、富士山に行くの?」
閉眼したままJJに尋ねると、返事はなかったが、ベッドが少し揺れた。
JJはうなづいたようだ。