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「双二郎、明日、富士山に行こう」
「うん……は?」
半分眠りかけていたため、双二郎は一旦聞き流してしまった。
眉をあげてのっそりと無理やり瞼を持ち上げてみると、JJは旅行の日程でも組んでいるように、楽しげな様子である。
双二郎は今が瞼を下ろす機だとばかりに目を閉じた。
「………いってらっしゃい」
「僕、日本じゃ運転できないし」
「車壊れてるから、どのみち無理じゃね……?」
彼の頓珍漢はいつものことなので、双二郎は能動的な聞き流し体制に入ることに決めこんだ。
JJはスマホを握ったまま柔らかな声で言った。
「きーちゃんの車、借りなよ」
「兄貴の車がいくらすると思ってるんだ。傷の一つで、俺は破産するわ。きっと、新宿か上野からハイウェイバスが出てるだろ? 一人で行けよ。俺は仕事中」
めんどくさい気持ちを込めて双二郎が応えたが、JJは食い下がった。
「富士山の周り、少しまわりたいし。世界遺産になって、きれいになったんだって」
「台風が日本を出てってからにしろ」
「台風だから、いいんだけど」
普段にない食い下がり方に、双二郎は片眉をあげた。
「……なんで?」
「ん?」
「なんで急に富士山?」
「世界遺産登録されたから」
「それ、だいぶ前だろ」
「富士山麓は、世界遺産登録のために、だいぶ様子が変わったんだって」
「なんで台風?」
「台風が来たのは僕のせいじゃないよ」
「行くと、なにかあるわけ?」
「なにもないと思うよ?」
「観光?」
「観光するの? いいけど、仕事はちゃんとしたほうがいいよ?」
JJが真剣な顔で諭してきた。
何だかわからないが負けた気がして、双二郎は沈黙した。