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永倉探偵事務所  作者:
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 部屋割りは当然のように双二郎とJJが相部屋になり、紀一郎のキングサイズのベッドで天井を見上げる羽目になった。

 紀一郎は仕事があると言って、ワイン一杯きりで、防音室にこもってしまった。

 女性二人は、妙に牽制した雰囲気をたたえたままゲストルームに入って行った。もっとも牽制しているのはカノンだけであって、知子のほうは相変わらず仏像のような無表情である。

 たぐいまれなる個性を装備し、生活感の欠如した彼女たちが、人並みの常識の範疇で寝室を共用できるのか興味があったが、それをのぞきに行けるほど双二郎は命知らずにはなれなかった。

 JJはスマホを取り出し、本棚にもたれかかってどこかしらにメールを送っている。

 寝室の柔らかな光の中で、濡れ髪をたたえて伏せ目がちにスマホに指を伸ばす彼は、恐ろしいほどの色気を漂わせていた。JJでなければ襲うところだが、JJである限り双二郎には襲う気になれなかった。

 彼は一日一回、必ず「いつものあの人」という人に連絡を取っている。「おとうさん」とか「助けてくれる人」という言い方に変わることもある。ときどき「社長」や「先生」とも言っているし、「たーちゃん」や「ヒロ君の奥さん」と言うこともある。彼自身と同様、連絡相手が男性なのか女性なのか、毎回同じ人物なのか複数人なのか、法人格や屋号の可能性もあるが、はっきりしたことは不明である。場合によっては、名詞ですらない可能性や外国語の可能性もあるが、そのあたりは計り知れない。

 落ちかけている瞼をどのタイミングで閉じようかと双二郎がぼんやりと天井の影を見つめていると、不意にくすっと鼻で笑う声がした。

 しばらくして、ベッドが揺れた。双二郎がトロンとした頭で横を向くと、JJがスマホをニコニコ見つめてベッドにうつ伏せになっていた。

「なに? いつもの人?」

 双二郎がぼんやりとしわがれた声で聞いた。

「ん」

 JJがスマホを見つめながら答えた。

「富士山が世界遺産に登録されたって」

 彼はニコニコと頓珍漢な事を言っている。

「は? なにそれ?」

「世界遺産っていうのは…」

「世界遺産は知ってる」

「富士山…?」

「富士山も知ってる」

「双二郎、明日富士山見に行かない?」


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