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「俺と北ちゃんとの仲じゃないのさ」
顔を上げることすらせず、大儀そうに端野は言った。
「それに、今日のはまた別件だから」
「別件って……、永倉不在の間にどんだけトラブルかかえるつもりなんだ」
「今のとこ、こないだの事務所襲撃事件と今日のとで二件だけだから、大丈夫」
「ホント、名刺返して……」
北大路は力なく言った。
しかし、端野はやはり顔すら上げなかった。写真を必死で見ているわけでもないようだ。
ぼんやりと中を見つめながら、珍しく低い声色でつぶやいた。
「あの時に行方を追っていたあの娘、時任麻奈美は、戸籍がなかった。その失踪調査中、事務所に押し入ってきたのが勇盛会」
「戸籍をめぐる、暴力団とのトラブルってことか。そこに、お前らが首を突っ込んだ。時任麻奈美は外国人だったのか?」
「……」
端野は何も言わなかった。
「だいたいさ」
しばらくして、煙草をゆくらしていた北大路がかすれた声で言った。
「その娘、そのあと自殺体で発見されたんだろ? 失踪調査は終わったんじゃないのか? なんで調べてんの? 勇盛会に事務所の修理代請求しても無駄だぞ。じり貧だからな」
「あー、」
端野は、部屋の隅で寝息を立てている人らしき塊に聞こえないように声を低くした。
「佐和ちゃんも同じだったんだよねー」
北大路は眼鏡の下の瞳をふっと細めた。
「佐和ちゃんって、永倉の奥さんの佐和子さんか?」
「そう」
「あの人も戸籍なかったっけ」
「知ちゃんができたから、大慌てで佐和子の名前を買ったんだよね」
しばらく、二人の間を煙草の煙が行き来した。