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北大路に手渡されたのは、数枚の写真だった。ほとんどが暗く、うすぼんやりしているが、複数の男だということは分かる。それも、若く、ほとんどがガニ股気味の立ち姿をしているようだ。
「あんたんとこの事務所を襲ったのは、そいつらじゃないか?」
端野は弱々しく明滅する蛍光灯に照らして、写真を覗き込んだ。
どれもが引き気味に撮影していったため、容貌をはっきりと確認することができない。
「うーん……。襲ってきてすぐ、俺の卓越した運動神経が働いて、犯人たちをまいちゃったからね」
「アルバイト従業員放置して、事務所の窓から飛び降りたんだって? 本庁の森が呆れてたぞ」
「……これ、誰なわけ?」
都合の悪い指摘をなかったこととして、端野は一枚の写真をピックアップした。
他の写真がすべてうすぼんやりとした引き姿なのに対し、一枚だけ、笑顔の男女が花輪を前にバストアップで写っている写真があったのだ。
北大路は眉をあげて、デスクの脇に放置してあった煙草の箱を手に取った。
「勇盛会の広岡って男だよ」
それから、それだけ不釣り合いなほど黒光りしている銀無垢のジッポライターで火をつけた。
「他は知り合いのライターから流してもらった写真だけど、それだけはオリジナルな。勇盛会が持ってる店の開店セレモニーの時の写真だ」
「勇盛会?」
「今はもう落ち目だけど、十年くらい前は50人規模の組員がいた。人身売買とか土地転がしとか、古めかしいことから離れることができなくて、そのまま没落。名簿上は今も十数人の組員がいることになっているが、実際には広岡が囲ってる数人だけだろうな」
「じゃ、あの時、うちに来たのが全組員ってことか。けど、今日襲ってきたのは暴力団じゃなさそうだったんだけどなぁ」
「……今日もひと悶着あったのか!?」
「ああ。少なくとも、今日はこの広岡って男は居なかった。こないだは……どうだったかなぁ」
端野が首をひねる。
北大路が手を伸ばした。
「端野。俺の名刺、返してくれ」