22
「おいおいー、東京湾に沈んでもいいけど、その前に俺の名刺破棄してくれよな……って、あー! おい、座るなよ! 原稿!」
北大路は手を振り上げて声を上げた。はずみで眼鏡が額から落ちた。
端野はあわてて立ち上がった。
「おわ!?」
「ケツ! ケツ! 原稿くっついてる!」
端野はひょこひょこと振り返ると、濡れた尻にくっついたA4用紙を引っぺがした。
北大路がそれを乱暴にひったくる。それから、手にしていた封筒で端野の尻を叩いた。
「まったく勘弁しろよ! 金持ってきたと思ったら、運持ってっちまうのがお前の常なんだから!」
「そんなこと言ったってさぁ」
端野は身をすくめながらも悪びれなく言った。
「発行部数八百部に、運も未来もないっしょ」
「疫病神が何を言う」
「『十三年目! 防衛省使途不明金問題に迫る!』とか、何番煎じよ。誰が買うの?」
「お前、話聞くの? 聞かないの?」
北大路は眼鏡を拾い上げると、再度、封筒で端野の尻を叩いた。脱力した様相で椅子に腰を下ろす。
「聞く聞くぅ」
端野は万札を振りながら言った。
「そのために、諭吉さんにご出張願ったんですから」
端野は北大路の机の上に、紙幣をまとめて乗せた。
北大路は枚数を慎重に数えると、それから改めて一枚一枚透かしを確認した。
「北ちゃんそこまでする?」
「お前が諭吉と友達なわけない」
「本物でしょ?」
「……みたいだが、」
含みを持たせる言い方をして、北大路はしぶしぶ紙幣を胸ポケットにねじ入れた。
それから、探し当てた封筒を開け、端野に乱暴に手渡した。