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「あたし、壊してないわよ」
「どうだか」
双二郎はフローリングに座りなおした。自分と兄のために、グラスにワインを注ぐ。
JJはさも当然のようにトマトジュースを知子とカノンに供した。
カノンは一瞥したが、胡散臭そうに口をゆがめただけで手をつけなかった。
ワインのグラスに口をつけながら、紀一郎はひらひらと手を振り回す。
「いいよいいよ。どちらにせよ修理代は端野さんに請求するから」
「兄貴、本当に端野さんをつぶしにかかってるでしょ」
「ちがうちがう。それが大人のナシの付け方ってものよ? 二十歳過ぎたら、双二郎も大人の話の仕方ってもんを学ばなきゃ。だいたいアルバム発表前のこのくそ忙しい時に、事前の連絡もなくチビッコを寄越すあたり、端野さんのほうだって、大人の話し合いする気満々って感じじゃない?」
「端野さん、もうそろそろ日本を出たほうがいいんじゃないかなぁ」
JJがトマトジュースに口をつけながら天使のようににこにこと笑った。
「そうじゃないと、日本に迷惑をかけるよね」
「Jちゃんはもうそろそろ宇宙進出する予定ある?」
「とにかく兄貴、明日まで泊めて」
双二郎は不毛な応酬を遮った。
「台風おさまったら出てくから」
「いいけど、寝室二つしかないよ? どういう編成で寝る?」
紀一郎はにやりと笑った。