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「あんたんとこの彼女って、超能力者? って言うか、サイコ?」
カノンは開口一番言った。隣には無表情の日本人形が突っ立っているので、多分、彼女のことを言ったのであろう。
「何のこと?」
双二郎は尋ねた。
普段の知子の恰好は、サイコどころか神様か悪魔かといったところであるが、服装を変えれば、目鼻立ちのはっきりした父親に似た端正な少女である。だが、今、派手顔のカノンも憮然とした表情の知子も、そろって着ているのは非常にリアルなサバのプリントが施された青いシャツであった。裾にテレビ局の名前が書かれている非売品である。
カノンは片方の眉を持ち上げた。
「洗濯機、手で触らずにぶっ壊したんだけど」
「あー、知ちゃんならそういうことあるよね」
ハムを切り分けながらこともなげにJJが応えた。太陽が昇って、海が波打って、風が木の葉を揺らすように、知子が手を使わずに物を壊すのは自然の摂理であるといわんばかりである。
当の洗濯機の所有者の紀一郎は、ハムをつまみながら特に気にも留めていない様子だった。
「洗濯機、壊れちゃった?」
「服を入れようとしたら「壊れるからやめたほうがいい」ってこの子が。気にせず回したらぶっ壊れたわ。びりびりになって引っかかって取れないんだけど、どうしてくれんの」
双二郎はワインのコルクを抜きながら眉をしかめた。
「それは知ちゃんの超能力というより、お前の特殊能力な」