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「あんの警備員……!」
しれっとした顔で通しておきながら、住人にしっかり通報して注意喚起するあたり、彼もプロだ。もしかしたら、知らない間に跡をつけられていたかもしれない。それにちっとも気が付いていない探偵も探偵である。
双二郎は兄のクローゼットから比較的おとなしいシャツを選ぶと、それを少女二人に渡してシャワールームに押し込めた。
「双二郎」
とたんに紀一郎は声をひそめた。
「18歳未満は犯罪として成立しちゃうからいけませんって、お兄ちゃんあれほど言ったでしょ。しかも、一時に二人も……。自分を大切にしなさい」
「違う」
タオルをつかんで双二郎は脱力した。
「違うし、それに、JJはノーカウント……?」
「JJは、男とか女とか人間とかそういうの超越した存在だから。推理小説だったら叙述トリックでJJが男か女かわからないようにしてるとこ……え! え! まさか、JJと半分こ、!? どっちか一人、JJの……!?」
当のJJは、話を完全に無視してミニバーに潜り込んでいた。勝手知ったるそぶりで冷蔵庫からトマトジュースを取り出している。雨風にあおられて、茶色くしなびたブロッコリーのような頭になっているが、当人は空調設備の整った部屋で一夜を過ごせる見込みがついたためか、にこにことうれしそうである。
「兄貴のツボはそこ……?」
双二郎は紀一郎のシャツに着替えると、JJにも投げてよこした。白地に「俺は努力家」と自信なさそうな字で書いてある逸品だ。
「どっちも違う。日本人形みたいなのは所長の娘さんだし、もう一人は依頼人。事務所ガタガタだし、兄貴のところに一晩泊めてもらおうと思って」
「なーんだ。JJが相変わらず横道にそれずに変態で、お兄ちゃんひと安心」
紀一郎はつまらなさそうに言った。
「兄貴、仕事は?」
「だから、今やってたとこ。端野さんはお留守番?」
「依頼人がらみでごたごたして、警察署。あと、情報屋さんに未払いの情報料をお支払いに。その後ここに来る予定。仕事熱心な警備員に止められなければ」
「警察署って、この間みたいなことがまた? 脛に傷のある人が来た?」
「事象としては近いけど、方向性が違う」
「依頼人はやくざさんの女?」
「だから、暴力団がらみじゃない。宗教団体が運営する児童養護施設から逃げてきたって女を保護してほしいって、所長から電話があってさ。迎えに行ったら襲われた。事務所も端野さんちもぐちゃぐちゃ」
「悪いけど、お金だけは貸さないよって端野さんに言っといて」
「……わかった」
「あと、濡れたなりでソファに座るなって。本革製だから、カビるから。あと、俺、アロハシャツは持ってないから、どうしても着たいなら自分で用意するように。それと、銀座で俺の名前だして飲むのやめて。この間、ツケがまんま残してあって、まぁあれくらいならいいけど、二度目はないよ? 端野さんが酒こぼしたお姉ちゃんの衣装代まで俺が出したからね。それに……」
「兄貴、兄貴、」
双二郎はストップをかけた。
「兄貴、端野さんのこと嫌いでしょ」
「そーんなことないない」
紀一郎は満面の笑みで右手を胸の前に突き出し、手のひらをぶんぶん振った。近くにハエがいたらはじけ飛んで壁にクリーンヒットしそうな勢いである。
「俺、あの人の生き方好きだもん。見てるだけなら大好きなくらい。でも、できる限り俺から離れたところで幸せになってほしいと思ってるだけ」