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双二郎の兄のマンションは、この辺りで地価が一番高い地域にそびえていた。部屋に入るためにはオートロックと警備員と受付と監視カメラをくぐり抜けねばならず、その上、エレベータは一度乗り換えなければならない。ロビーにはシャンデリアのひ孫くらいの大きさの光源がぶら下がっていた。バリアフリーというものを寄せ付けない七段の幅広の階段には、宝石のようなタイルが敷き詰められている。
四人が近づいた時、警備員は二秒ほどゾウリムシを見るような表情をしたが、三秒目には職業倫理から来る無表情に戻っていた。しかし、双二郎がオートロックの入口にカードを差し込むときには、カードが本物かどうか精査する真剣なまなざしで注視していた。
「いいマンションね」
美少女の感想はそれだけだった。
JJは何度も訪れたことがあるし、知子はハナから動じるタチではない。
エレベーターを乗り換えた先にはどこの結婚式かと思わせる花束が活けてある廊下が続いていた。
「おー、そーじろー」
ジャージの大男がドアを開けた。
「JJも。何? 今日は合コン?」
雨と風に打たれた四人を何の躊躇もなく招き入れるあたり、この人も変態である。
自宅のように知子とカノンをシャワールームに案内しながら、双二郎は大男を振り返った。
「兄貴、居たんだ……。今日仕事は?」
「今してる……してたんだけど、」
大男はジャージの袖をまくりながら、
「ロビーからすごい剣幕の不審者情報がインターホンに入ってさ。中断したとこ。弟さんのようですがドアを開ける際にはご注意くださいって」