15
「…ああん」
40がらみのアロハの中年男が身もだえした。風にあおられて崩れた前髪が哀れにも額に張り付いていた。眉毛はすでに八の字である。
「どなたか現金持ってませんかぁ?」
嵐の中に放り出された猫のような瞳をした中年である。
すでに半壊のバンのウィンドウに取りすがった。
「端野さん…ここにいるの、俺以外全員未成年です」
運転席の双二郎はなるべく視線を合わせないようにしながら答えた。
「じゃぁ、双ちゃぁん、十八万円ほど諭吉さんの持ち合わせはないですかぁ?」
「雇い主が未払いの賃金払ってくれれば、今すぐトイチでお貸しできるんですが…」
「私が貸そうか?」
成人二人の不景気な話題にこともなげに割り込んだ声があった。
仔猫をあざ笑う悪魔のように目を細めている、美少女だった。
懐から取り出したブラックカードをちらつかせている。
「無利息無担保でいいわよ?」
「…ブラック金融の匂いがしますよぉ?」
端野が力なくつぶやく。
「持ち合わせ、ないんでしょ?」
にやりと少女は口元を持ち上げた。
後部座席では、魚のように無表情の日本人形と天使のほほえみを浮かべたフランス人形が置物のように並んでいた。
「僕、」
フランス人形が小さく囁いた。
「知ちゃんのこと好きだけどね」
日本人形がフランス人形をガン見する。
フランス人形ことJJは穏やかな微笑みを浮かべたまま、しみじみといった体でひとりうなづいている。
「知ちゃんのお父さんじゃなくて本当に良かったとおもうよ」
「私もそう思います」
知子はあっさり賛同した。