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結局、常識とは無縁の一同は逃げるようにして現場を去ったのだが、ほどなくして双二郎の携帯に端野の携帯から着信が入った。
もちろん助手席にいる本人からのものであるはずもなく、それは警察からのお叱りの電話であった。
平均年齢が20歳を切る四人の目の前で子供のように叱られた端野は、しかし、叱られることに慣れているせいか、口先だけで大して反省している風でもなく、それでも経営者という社会的立場から警察に出頭することになった。警察のほうでは、端野よりも投げ飛ばした張本人に出頭してほしいようだったのだが、本人の年齢と現時間を考慮され、明日以降の出頭で許されることとなった。
「うーん、とりあえず双ちゃんのお兄さんとこでも寄らせてもらってて。あそこならセキュリティオッケーだから。それからのことは考えるから」
「賠償とか?」
「それは考えないことにします」
端野はきっぱりと言った。
「でも、兄貴、こんな時間にいるかなぁ。あの人、日の光で溶ける特異体質だから、これからの時間が活動期なんだよね」
「大丈夫、あの人なら。ほんと、大丈夫」
根拠なく断定して、コンビニにでも行くかのような気安さで端野はバンを降りた。
額に当たる雨をうっとおしそうに避けて、天を仰ぐ。
「あーやだなぁ。今から警察に核ミサイルでも落ちてくれないかなー」
「端野さん」
出かけ前、出頭待ち少女が唐突にしゃべり始めた。
踏み出しかけていた端野は、どこかから幻の声でも聞いたかのように、肩をすくめた。あおる風にどぎまぎした後、それが知子の声であることに気づいて、警戒した表情で養女を振り返った。無意味に投げられるとでも思っているのかもしれない。
「さっき北大路のおじさんから電話がありました」
「うおっ」
あからさま、端野は顔をしかめる。
「嫌な名前言ってくれるな……もう」
子供のように身をくねらせ、四十過ぎのアロハの中年が唇を尖らせる様は、気持ち悪いというよりは神話的な無残さだった。
「何って? ……あんまり聞きたくないけど」
「『必要経費と合わせて十八万円。今日中に払わないと別のところに売るぞ』だそうです」