13 迷惑な盟友の感動の再開(?)
「じゃ、ちょっと見てきますから」
双二郎が運転席のドアを開けようとすると、
「うおあっ!」
後部座席から手が伸びてきて、双二郎の首筋を撫でたのだ。
ぞくぞくして双二郎は飛び退いた。
「うおあっ! ってJ.J.っ! こんな時にふざけんな!」
双二郎は振り返って、
「うおうっっ!」
再び大きく飛び退いた。
砕け散って消えてしまったリアウィンドウから、ずぶぬれの黒髪の日本人形が車内に片手を突っ込んでいたからだ。
貞子ぉっ……、と端野とデュエットで叫びそうになって、それから気がついた。
「……知子ちゃん!」
日本人形は車内に手を突っ込んで自ら鍵を開けると、安堵した表情のJ.J.の隣に滑り込んだ。
その間、無表情。
興奮した保護者が食いつくように後部座席に身を乗り出した。
「大丈夫か、知ちゃん!」
端野が叫ぶ。
「何があった?」
双二郎が聞いた。
「二人組の男の人が無断で入ってきたので、ベランダに投げました」
少女、無表情、抑揚なし。
「投げ……」
興奮のあまり状況がわかっていない端野と、知子が人を投げ飛ばしたところで眉ひとつ持ち上げるほども気にしないJ.J.との狭間で、双二郎はたった一人の常識人として復唱してみせた。
母親の過激な教育の産物で小さめの偽装核爆弾と化している少女は、過去数回、双二郎の見ている前でも人を投げ飛ばした実績があり、しかし、そのどれもが正当防衛だったことから敵味方ともから不問に付され、警察沙汰にならずに済んでいた。……のだが、ここに来て初の公権力の干渉という事態に陥ったらしい。
本人はあまり事の重大さを認識していないようで、濡れた髪もそのままで後部座席にちょこんとおさまっていた。(あるいは認識しつつ反応しないことに決めているのかもしれない。この辺りはJ.J.と同じでぱっと見からは計り知れない)
端野は放心しているし、黒いワンピースの女は五番目の乗客をうさん臭げに見つめるだけだ。この場において情報を処理できるのは双二郎しかいない様子だったが、彼もまだ状況を消化不良だった。
「え、それって、それを……それで、警察を呼んだの……?」
「いえ。警察は多分、下の階の人が。多少騒々しくしてしまったので」
「大変だったねぇ。でも、合気道やってて良かったね」
こっちは心底から事の重大さを認識していないと確信できるJ.J.が、ブロッコリー頭でにっこりと微笑んで柔らかに言った。
知子は隣に座るJ.J.の頭を興味深そうにしげしげと見つめた後、何も言わずにうなづいた。
……さすが盟友。