12 少女の冷静 親父の動揺
知子はいた。
同時に警察もいた。
ご近所もやじ馬も、雨を避けるように階段の下に溜まっていた。
「うわぁあぁ、まずい……まずいよ、ホント、これはぁ……」
家の前にパトカーが停まっているのを見た途端、端野は色を失ってぶつぶつ呟き出した。
車は駐車場を無視して路上で急停車した。
外で誰かが見張っているかもしれない。なるべく無関係者を装うために、離れた場所から現場となっている様子の自宅を俯瞰できる位置に停めた。
いつも停めている駐車場近くにはパトカーが一台、それに加え、嵐の中、遠くで聞き慣れた電子音が輪唱している。近く、もう数台この場所に駆けつけるであろう事は予測がつく。
見上げれば、八階の部屋には全面明かりが灯っていた。知子とは明らかに違う大柄な影がちらと一度だけ窓際を通った。
端野は力なく呟く。
「知ちゃーん……」
「とにかく、」
ハンドブレーキを引いて双二郎は珍しく真剣な声色で言った。
「何があったのか聞いてきます。J.J.の事から考えても殺されてるって事はないだろうし、万が一人質にとられるような事態になってたとしても、警察とやじ馬の前で下手な事はできないだろうから。端野さんは部屋に電話をかけてみて下さい。……ほら、しゃんとして」
まるで所長になり代わっているかのように端野に指示を出した。
「端野さん、携帯は?」
「……え、あ、忘れてきちゃった。家に」
つまり、あの現場だ。
双二郎は苦い顔をすると、未だいじいじしている端野に自分の携帯を握らせた。
「俺の使って自分の携帯にかけてみて下さい。知ちゃんに通じるかもしれない。J.J.、しばらく二人を頼む」
「うん」
こちらも珍しく真剣な声色のJ.J.が答えた。視線は窓の外に向いている。多分、盟友であるらしい知子の事が心配なのだろう。
この様子ではJ.J.も大した戦力にはなりそうにはないが、はなから戦力外な二人を置き去りにするので仕方ない。端野の大人としての良識とJ.J.の若い男性の外観に期待するしかない。
「じゃ、ちょっと見てきますから」