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04話 マリーは村へ出発する



 ローズが魔力を獲得した。

 

 その事実を伝えると彼女は嬉しそうにその場で飛び跳ね、歳相応にはしゃいでいた。


「私が魔法使いに……?!」


 頬をうっすらと朱色に染めて「火の魔法がいいなぁ」と、うっとりした瞳で空を見上げる。

 その顔は物語の王子様に恋する乙女のようだ。


 こんなに喜ぶなんて、やっぱりローズもまだまだ子供なんだね。

 よいよ、その無邪気さに見ているこっちも何だかほっこりするよ。


「これでお肉がムラ無く焼けるようになるわね!」


 訂正する。やっぱりローズはローズだった。


「大丈夫。マリーのお肉はあたしが美味しく調理してあげる」

「落ち着いて、お姉ちゃん。その道の果てにあるジョブは魔法使いじゃないよ!? 料理人だよ!!」


 昨日は食で死に掛けたばかりなんだから自重しようね?


 そう目で訴える私にローズは無邪気に問いかけた。



「それで魔法ってどうやって使うの?」


「……知らない」



 虚しさを含んだ冷たい風が私達の間を吹き抜けていったよ。

 私はローズの無垢なる瞳から必死に目を逸らすのだった。







 とにもかくにも私達は次の行動を開始する。


 まずは必要なものをまとめて近くの村へ行くのだ。


 集落から一日歩くとそこそこ大きな開拓村があるらしい。

 場所はローズが知っているから問題ない。何度か遊びに行ったこともあるんだってさ。


 ここの集落の人々はたまにその村で物資を仕入れていたのだ。



 片道で一日の距離。つまり買出しに行った者は自然とそこで一泊することになるが、残念ながら村には宿泊施設は存在しないそうだ。


 かといって訪ねるごとに村の人たちのご好意に甘えるのも悪い。

 そう思ったローズのお父さん達は、許可を取って自作で仮宿を作ってしまったのだ。


 物置程度の大きさだけどきちんと雨露が防げて、冬場は暖も取れる自信作らしい。

 私達はこれから開拓村へ向かい、その住居を使う予定である。


「男の子達ってそういう秘密基地を作るのが好きよね」


 ローズはちょっぴり冷めた感想を漏らしていた。


 けどお父さん、私にはあんた達のロマンがちゃんとわかってるよ。

 秘密基地作りって楽しいもん。私も実は大森林の中に五つぐらい作ってるのさ!


 おやつを隠してあるから横領常習犯ローズには一箇所しか教えてないけどね。




 そして次に村からお母さんの知り合いへ手紙を出す予定だ。


 この国の王都にいる知人なら必ずローズのことを助けてくれる。だから今後の身の振り方はその人を頼りにするように。と、お母さんは言い残した。雪が積もる前に手紙を出すことができれば、早くて春には迎えがくるそうだ。



 ヒト族は今の季節にはもう冬篭りの準備を終えているので、子供二人を家庭に受け入れてもらうにはタイミングが悪い。ここは雪が積もると都市部との行商も満足にいかない辺境のド田舎なのだ。冬の備蓄にはどうしても限りがある。


 それに上手くいけば私達の迎えは季節一つ過ぎれば来る。

 私達の村での生活は比較的短期間なものになる予定だ。


 だから私とローズは仮宿を拠点に二人で自活することにしている。


 二人で協力して日々を過ごすこと。そして困ったことがあった時は必ず周りの大人に相談をすること。

 その二つをお母さんと約束した。


 最後に「マリーがいるから住居の安全と食べるものは大丈夫ね」とお母さんが言い切っていたのが印象的だった。


 これは私への魔物狩しんらい肉確保じっせきがあってこその計画なのだ!





 朝食を終えると、まず私達は家の瓦礫を全て撤去した。


 この辺りは力の有り余ってる私が大活躍である。落っこちてる木や石を適当に「ていっ」と投げまくったらすぐに終わったよ。


 その後は二手に分かれた。ローズは廃墟から持って行くものを選別し、私は大森林へ狩りへと向かう。

 今日中に全ての準備を終え、明日の早朝にここを出発する予定だ。


 それまでに私に与えられた任務は二つ。

 一つは私達の分の食料を確保すること、そしてもう一つは村で『コーカン』するものを得ることだ。


 なんと驚いたことに、開拓村にはあるものが存在するらしい。

 それは――


「コーカンジョ?」

「そうよ、これから向かう場所には交換所というものがあるわ。そこではたくさんの人が自分の持ち物と欲しい商品を交換しているのよ」

「じゃあ私達もそこで『コーカン』できるの?!」

「ふふふ、もちろん! そこで生活に必要なものを補充しましょう。だからマリーは交換できそうなものを森で獲ってきてね」

「任せて! お姉ちゃんの涎が止まらなくなるぐらいの大物を獲ってくるからさ」


 そう、私の大好きな『コーカン』をする場所がヒト族の村にある。

 そのことをローズから聞いて、マリーベルはずっとソワソワしているよ!


 なんたって元気いっぱいの八歳児だからね。まだまだ落ち着けない年頃さ。






 そんなことを考えていたら、目の前に私を丸呑みできそうなぐらい大きな銀の狼が現れた。

 ぐるるー。と牙をむき出しにして、こっちを狙ってるよ。


「活きも良いし、これぐらい大きいなら、お姉ちゃんも大喜びだね」


 私はニヤリと笑みを浮かべると、一足飛びに巨大な狼の懐に飛び込んだ。

 魔物は凄い勢いで周囲を跳ね飛び回り、私を近づけさせまいと抵抗するが無駄な努力だ。前足の爪で切り裂くつもりのようだが、私は片手でパシっと爪をキャッチする。

 何かの魔法かな? 銀の狼が吼えると同時に、ぶおぉーっと強い風が吹いているけれど、私には効かない。マリーベルはズボンだからね。スカートなら危なかったよ!


 そして私は右腕を振りかぶった。

 この先はもう決まっているでしょ?


「エルフパンチ!」


 当然の如く一撃必殺。

 マリーベルはでっかい狼さんをゲットだぜ! 








「うわぁー、凄いわマリー! これってギャングリーウルフでしょ?!」


 だらしなく涎を垂らすローズの前には、熊の三倍は大きい狼の魔物が転がっていた。


 うーん、ローズと並べるとますます大きいや。

 移動とか、置き場所とか、何も考えずにエルフパンチで仕留めちゃったけど、これじゃあ大きくて持って行くのに邪魔かなぁ。


「かつて戦争で疲弊した街の人々をたった一欠けらの肉で笑顔にしたという逸話のある縁起のいい食材なのよ。お貴族様たちは勝負前にはこぞってこのお肉で弦を担ぐんだって」


 うん。ローズが気に入ってくれたから問題ない。てか毎度食材の知識が半端ないね。

 とりあえずお姉ちゃんの眩しい笑顔が見れてマリーベルはウッキウキだよ!



「マリーは本当に強いわね。この魔物は本来、倒すのに何十人という騎士様達を呼ばないといけないのよ?」

「そうなの? ちょっと大きいけど、ただの狼じゃん」

「そんなことないわ。知能も人並に高いし、鎧や盾を簡単に切り裂く強力な風の魔法まで使うらしいの」

「確かに強い風がピュンピュン吹いてたよ。やっぱりあれ魔法だったんだね!」

「あ、うん。マリーにとってはその程度よね」


 ローズは苦笑いを浮かべながら、狼を見上げる。


「凄すぎてきっと大騒ぎになるだろうなぁ……」


 そう不安そうに呟きながらも、容赦なく血抜きを行うローズはさすがであった。

 さっさと処理しないと味が落ちるからね!




 

 そしてとうとう出発の日がやってきた。

 

 私達は日の出と同時にお母さん達のお墓に長い祈りを捧げる。

 長い長い沈黙の後、どちらともなく顔を上げるとローズが私の手をきゅっと握った。私は無言でその手のひらに力を込める。



「「いってきます」」



 二人揃ってそう呟き、私達は集落を後にした。


 何気なく振り返ると、皆を守る神様の像が「いってらっしゃい」と微笑んでいるような気がした。





 少々痛んではいたが木製の荷車が壊れずに残っていたのはラッキーだった。


 私達は荷物を荷車に載せて開拓村への道のりを進んでいる。

 ギャングリーウルフも血抜きだけした状態で荷車に乗っかっていた。うん、でかいね。


 本当は高性能なマリーベルエンジンが一人で牽引しても問題ないのだが、ローズが絶対に手伝うと譲らなかった。だから彼女は荷台には乗らず、一緒に荷車を引いている。


 もうすぐ十二歳とはいえ、ヒト族の、しかも女の子には一日歩くだけでも大変なのに、ローズは弱音を吐かずに私の隣に居続ける。


「疲れたら言ってね、お姉ちゃん」

「ありがとうマリー、でもいいの。だって――」


 心配する私に、ローズは優しく微笑んだ。


「歩いていきたいの……マリーと一緒に!」


 その言葉のおかげで私の頬はだらしなく緩んでいたことだろう。

 代わりに荷車を引く腕に力を込め、私は大好きなお姉ちゃんと一緒に新しい舞台へと足を進めるのであった。 






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短編をupしました。暇つぶしにどうぞご覧下さい!
マリーベルと同じくギャグ要素多めの作品になります。
↓↓↓↓↓↓
異世界に転移した俺はカップめんで百万人を救う旅をする

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