03話 マリーは手のひらを返す
何かを告げるように光を灯した攻略本を手に取ると、私は藁にもすがる気持ちでそのページを捲ってみた。
するとさっきまで真っ白だったはずのページに、エルフ族の言語でローズの食べた七色のバナナと症状について記載されていたんだ。
「ナナカラーバナルによる魔力の過剰摂取?」
【名 称】
ナナカラーバナル
【生息地】
二番の大森林、七番の大森林、十三番の大森林
【概 要】
エルフ族の住まう大森林の奥地に生息する七色の果実。
見た目はバナナに似ているが、大森林が持つ聖なる魔力を大量に含んでいるため魔力の無い者が食すると魔法の力に目覚める時がある。しかし食べすぎには注意が必要。
欲張って過剰摂取にすると生命力が急激に低下し、死に至る場合がある。魔力値が低い種族には一日一本までが推奨の果物である。
一日一本どころじゃないよ。一房ぱっくりと食ってたよぉぉぉー!
欲張って完食しちゃったローズはこのままだと死への街道まっしぐらじゃん!?
なんで急に攻略本が光ったのか?
どうして白紙のページに文字が現れたのか?
色々と気になることは多いけれど――
「とりあえず、どうすればローズは助かるの!?」
そう問いかけながら私は攻略本のページを更に進めた。
攻略本の続きを確認した私は流星の如く行動を開始した。
まずはローズの家から瓦礫を撤去して布団を掘り出す。そして次に大き目の板や石を簡単に組み上げて最低限の壁と屋根を作った。簡易小屋の完成だ。
冬直前の野外に比べると簡易小屋の中は非常に快適だった。これでローズを暖かい場所に寝かせることが出来るよ。
そして――ぬふふ、準備完了だ!
作業を終えた私はハァハァと荒い息を吐きながら、未だ苦しむローズの側へとにじり寄る。
「マ、マリー……?」
汗にまみれ、意識も空ろなローズは涙を滲ませた瞳を私に向けている。
これから行うのは治療。ローズの為の行為だからセーフなのだ。ひゃっほう!
「い、いやぁ! やめてマリー!!」
「良いではないか、良いではないかぁー」
私はぐったりとして無抵抗なローズの服をすぽぽぽぽーん! と剥ぎ取った。
そう、ローズを素っ裸にひん剥いたのだ。
おかげで私の目の前には布団の上ですっぽんぽんな巨乳美少女がいるぜ。うひゃひゃーい!
ちなみに私の台詞は偉大なるユグドラシル先生による演出だ。
もちろんこれらの行動にはきちんとした理由がある。
それは攻略本の次のページに書き記されてされていた。
【過剰摂取した魔力の処置方法】
患者が魔力値の低い者の場合、魔力を持った者をパイプ役として過剰な力を吸収・放出する方法が一番望ましい手段である。
対象から魔力吸収を行う際、触れ合う肌の面積が多ければ多いほど患者への負担が少なくなり安全に処置が可能。
なお急激な魔力の喪失は患者にショック症状を引き起こす可能性があるので、パイプ役となる者は焦らず時間をかけて魔力の移動を行うことを心掛けましょう。
「だ、だ、だ、駄目よマリー! 女の子同士なのに!!」
「そんなこと言ってる場合かぁー!」
お姉ちゃんを守り隊の隊長であり、大森林の全裸エルフとしてこの地に君臨する私に迷いなどない。
私はすぽぽーん! と、あっぱれな脱ぎっぷりで衣服を捨て去り、床の中のローズの胸へとダイブした。
「なんで迷わず胸に顔を埋めるの!?」
「黙って。今、集中してるから!」
ローズと全身の肌を密着させ、私は彼女の体内にある魔力の渦から少しずつ力を抜き取っていく。
焦らず、慎重に、壊れないように優しく、彼女の中から魔力を掻きだすのだ。
流れる魔力が触れ合う肌にふわふわとした火照りを生み出し、不安定だったローズの心臓がとくんとくんと徐々に心地の良い音へと変わっていくのを感じる。
時々、私のエルフ耳が胸の中でピコッピコッと動くごとにローズは「んんっ」って熱っぽい声をあげてたよ。まあ、熱があるから熱っぽいのは当然か。
「エルフって。エルフってぇ……!」
そんなローズの甘く切ない声が広い夜空に響いていた。
結局、ローズの中の全ての魔力を除去するには明け方まで時間を要した。
苦労した甲斐もあり、見事にローズは完全復活できたんだ。
「ううう、心配かけてごめん。マリー」
「全くだよ。次からつまみ食いは控えてね!」
「……善処します」
決して「止める」とは言ってない点は突っ込んだら駄目なんだろうね。
布団で恥ずかしそうに肌を隠しているローズを責めるような視線でジーッと見つめると、急にプイッと顔を逸らされた。
「マリーは妹……マリーは妹……」
まだ熱が引いてないみたい。真っ赤になりながらなんか呟いてるよ。
朝ごはんは栄養のあるものを用意してあげなきゃね。
今回、一番の功労者は神様から貰った『攻略本』だろう。
ありがとう神様! ありがとう攻略本! おかげでローズが助かったよ。
役に立たないとか思ってごめん。攻略本は最高の贈り物だった。
偉大な攻略本様に敬意を払おう。
マリーベルは手のひらクルックルーを覚えたよ!
我証拠を得たりと思ってローズにも現れたページを見せてみたんだ。
「んー、何も書いてないね」
攻略本はまた真っ白なページに戻っていた。
なぜだ?
そして実は一つ、今回の件で得たものがあった。
今朝からローズの体にほんの僅かだけど魔力の流れが感じられるようになったんだ。
そうローズは魔法の力に目覚めたのだ。