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66話 マリーは楽園を作る(後編)


 場所は村外れに新しく建てられた石造りの母屋。

 そこに設置された入り口は二つ。それぞれの扉にヒト族語で『男』『女』と書かれている。

 扉をくぐった先の部屋には、壁にいっぱい窪みがあって、脱いだ服をそこに置いておけるんだ。そして本命は服を脱いだ後――もう一つの扉を抜けた先にある。


 その先にはカッポーンという擬音語が似合いそうな大浴場。



 ワットのお風呂発言で、もうわかってたよね?

 私達が考えた答えは露天風呂を作ることなのだ。



「ギャギャ、準備は出来ている。いつ始めても良いゴプ」


 そう言って笑顔を浮かべるのは製作担当のゴプリダだ。

 石に愛された種族であるゴプリン族にとって、この程度の露天風呂を作り上げるのはお手の物。村人全員が一緒に入れるぐらい広くて綺麗なお風呂を作ってくれたんだ。

 あとはお風呂にお湯を注ぎ込めば完成である。


「はい、村長。登録・・はもう終わってるから、これでドバーっとやっちゃってよ」


 その為に、私はイズディス村長へユグドラシルの聖杖を渡した。


「この杖に魔力を通せばいいのかい?」

「柄尻にあるF1キーを押さないと駄目だよ」

「わかった。やってみるよ」


 村長は戸惑いながらも、杖を浴槽へと構えた。

 そしてユグドラシルの加護を得た杖が、魔力を受け取ると――


 ドバドバドバーと大量のお湯が発生する。


「す、凄い……本当にエルフの種族魔法が使えるなんて」

「ギャギャ、この目で見ても信じられんゴプ」


 驚く長二人の前で発動しているのは、私が以前ポイズモゲラに使用したエルフルウォーターという種族魔法だ。レベル2の加温用ホットモードのおかげで、熱々のお湯になったユグドラシルの聖水が流れ出ている。


 本来ならばエルフしか使えない種族魔法をなぜ村長が使えるのか?

 それはユグドラシルの聖杖のある機能の恩恵である。




【ユグドラシルの聖杖 ショートカットキー】

 レベル2より使用可能。事前に魔法を登録しておくことで、起動呪文スペルワード無しで魔法を使用することが可能となる。世界ノアより下った魔法の許可を武器へと刻む為、魔力を通すだけで発動可能。故に装備者は認可条件をクリアしていなくてもショートカットへ登録した魔法が使える。



 

 要は魔法をストックしておけるってことね。

 ショートカット登録するのに面倒な手順がいくつかあるけれど、それさえ終わればF1キーを押して魔力を流せば発動するので楽チンさ。おまけにユグドラシルの聖杖は私の力を贅沢に使った一級品だから、消費魔力も少ないんだ。特にエルフルウォーターと『水の器』を持つ村長は相性がいいらしい。他の人たちが使用するよりも、何倍も効率よくお湯が注げるのだ。


 しかもユグドラシルの聖水の効果でお肌もツルツル。肩こり、腰痛、冷え性、疲労回復、血行促進、更には魔力的な症状にも有効という聖水温泉の完成さ!







 あっという間に満たされた浴槽を見つめて、村長は小刻みに震えていた。


「こ、こんな杖がこの世に存在するなんて……。間違いなくこの杖は伝説級武器レジェンドウエポンに分類されるよ。本当にこんな凄いものを貰ってもいいのかい?!」

「うん、ニョーデル村とゴプリン族の為に毎日、お湯を注いであげてよ」

「ああ、任せてくれ。これだけ注いでも、ほとんど魔力を消費しなかったんだ。水の器とこれだけ相性がいいのなら、この役目は僕が適任さ」

「ギャギャ、これで村人もゴプ達も毎日綺麗になるゴプ!」


 村長の快諾を受けて、ゴプリダも嬉しそうに笑っていたよ。


「露天風呂の管理はゴプ達に任せろ。ゴプリン族がずっと綺麗にするゴプ」

「村長として、その風呂にお湯を注ぐことを僕は約束する。マリー君に貰ったこの杖に誓うよ」

「ゴプ達も、マリーベルに貰ったこの赤い帽子に誓うゴプ」


 二人は誓いを『コーカン』して、がっちりと熱い握手を交わしたんだ。

 ゴプリン族とニョーデル村の住人達は、そんな二人へ盛大な拍手を送っていた。


「「綺麗、綺麗ゴプ!」」


 そうやって全種族が一緒になって、お決まりの台詞で喜んだのさ。





 ローズの姿に着想を得たワットの発言に、サリーちゃんのお店を開くという発想、そして私の提案した『皆で裸になる』大作戦。その全てを盛り込んだ上に『コーカン』まで可能にしたパーフェクトな解決策。


 これなら目立つ上に、綺麗好きなゴプリン族のイメージにぴったりだから、後から来るゴプリン達も安心できるだろう。そのへんはゴプララのお墨付きだ。


 更に店の中に私とローズの石像が作られ、ユグドラシルの聖杖はその中に組み込まれることになった。そこで魔法を使えば、全ての浴槽へお湯が行き渡る仕組みになっている。村長は定期的に風呂屋へ訪れ、像の中の杖へ魔力を流すのさ。

 シールが主張した『私とローズの像を作る』もこれで回収である。







 万事が上手くいき、私はローズと顔を見合わせてニコニコと微笑んだ。


「やったね。これで『コーカン』成立だ!」

「そうね。ニョーデル村とゴプリン族の『コーカン』が成立ね」


 二つの集団が一つになっても、ゴプリン族が不安がることはもうないよ。

 互いの長が『コーカン』した誓いと、毎日のように清潔でピカピカのお風呂さんがある限り、ニョーデル村は彼等の居場所であり続けるのさ。



 そして――ムフフ。

 合法的に皆が全裸になる楽園の完成さ!



 もちろん一番風呂は譲れない。

 マリーベルはお風呂に入るよ!










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短編をupしました。暇つぶしにどうぞご覧下さい!
マリーベルと同じくギャグ要素多めの作品になります。
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異世界に転移した俺はカップめんで百万人を救う旅をする

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