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63話 マリーは頭を使う



 後からやってくるゴプリン族が、この村を安全だと思える『何か』。

 一目見るだけで、ここが彼等の居場所だと示すもの。


 それを考えるのは、もちろん簡単ではなかった。




 例えば耳をピンと立てたシールの案。


「思いついた。格好良い石像を建てればいい」


 でも何故か、建てるのが私とローズの像だと譲らなかったから却下だ。




 次は口から涎がだらだらのローズの案。


「週に一度、皆でゴプリン族の種族料理を食べるのはどうかしら?」


 でも自分が食べたいだけだから却下だ。



 こんな感じで私達は何度も意見『コーカン』を繰り返したんだ。


 やがて私もエルフ耳をビクーンと、おったてて思いつく。


「わかった。全員で全裸になればいいんだよ!」


 これは私のナイスアイディア。

 マリーベルは理想郷を作り上げるよ!



 でも脱ぎたいだけだから却下された。ぐすん。







 こうして案を出しても、どんどん却下されていくけれど――


 私は考えることを諦めないよ。

 ちゃんと自分なりの答えを捻り出すんだ。


 もしその答えが間違っていても、大丈夫。頼りになるお姉ちゃんや友達が教えてくれるからね。そうやって皆で考えたことは、決して無駄にはならないと思うんだ。

 もしも攻略本を使うのなら、その後がいい。


 本当に困った時や、どうしても必要だと判断した時――

 そんな時にこそ攻略本にお願いしよう。


 安易に全てを頼って、楽をしようとしてはいけない。

 ちゃんと自分で考えてから、神様に祈るんだ。

 きっとそれが、この本の正しい使い方さ!

 






 私達の家や、森の中、川原やゴプリン族の集落――この数日間、私達は場所を変えてたくさん話し合った。いつの間にか他の子達も加わって本当にいろいろな意見が出たんだ。


 でも村長とゴプリダから良い返事は貰えなかったよ。何案か良さそうなのもあったけど、村の都合もいろいろとあるみたい。うーん、やっぱり難しいや。





 今日は村の中をぶらぶらしながら考える日だ。

 石を蹴ったり、棒を振り回したり、特に意味の無いことをしながら皆で村の中を歩いていると、私は何となく思ったんだ。


「やっぱり私は『コーカン』に関わる何かがいいな……」


 もはや『コーカン』はマリーベルの代名詞。

 その一言に皆も「またか……」と呆れたように笑っていたよ。


 そんな時に、サリーちゃんが「はいはい!」と元気に手を挙げた。


「でしたら、ザッカルー屋さんはいかがでしょうか? お店なら目立ちますし、マリー様のお好きな『コーカン』も出来ます。更にはラーズ村も安定した取引先が確保できて、皆が幸せになれますわ」


 ラーズ村の利益をねじ込んでくるあたりは、さすが村長の娘。計算高い幼女だね。

 ローズが困った時、思い出帳を作る案を考えてくれたのもサリーちゃんだ。

 最も年下だけど、この中で頭の回転は一番早いのかもしれないね。


 だけど「くふふ、そうなればもっとマリー様にねじ込めますわ」と悪い顔で笑っているから却下だ。





 しかしお店を開くというのは目立つし、面白い案だと思うんだ。

 すると、私の隣でローズがまたまた閃いた。


「それなら、お肉屋さんはどうかしら?」


 もち涎を垂らしながらね。

 ここまでブレないのは流石に呆れるよ。


「却下。お姉ちゃんの私利私欲が入り過ぎだもん。ちゃんと真面目に考えてよ」


 そしたらローズが、しょぼーんとしちゃったよ。

 あらん、本気ガチだったのね。


「うう……穴があったら入りたいわ」


 そう嘆きながら、隅っこの方で三角座りしているんだ。

 私はすぐにマリーベルパワーで地面を掘って、傷心のローズを穴に入れてあげたよ。


 私って姉思いの良い妹でしょう?

 マリーベルはアフターケアを覚えたよ!






 ローズを穴に入れた後も、意見コーカンは続く。

 私が『コーカン』好きなら、ゴプリン族はやっぱり『綺麗好き』という所がポイントだ。


 すると、またまたサリーちゃんが思いついた。


「では村のお掃除係という役職を作るのはいかがでしょう?」


 でもその案はゴプララが村を見渡して却下した。


「多分、すぐ終わるからあまり意味がないと思うゴプゥ」


 ニョーデル村ってそんなに汚くないのだ。言い換えれば何も無いってことだけどね!


 その流れで、何気なく周囲を見回していると、向こうで「汚い、汚い!」と慌てるゴプリン族へ、村の子が水を掛けてあげる光景が目に入る。

 同時にシールの尻尾がビビッと立ち上がった。


「ボス。ゴプリン族に水を掛ける係を作るのはどう?」

「うーん、その場にいる人が掛けてあげた方が早い気がするよ」


 その後も、あーだこーだと意見を出し合うも、結局良いものは浮かばなかった。

 でもそんな時、ワットが穴の中にいるローズをジーッと見ていたんだ。


「どうしたのワット?」

「おお、悪い。ついアレに似てるなーと思ってさ」


 私が問いかけると、ワットはたいしたことないと手を仰いだ。

 穴の中で座り、地面から首だけ出しているローズを横目に。


 ワットは何気なくその言葉を紡ぐ。



「いや、お前の姉ちゃんがさ……風呂に入ってるみたいに見えたんだ」



 バババッ!


 その瞬間、全員の視線がワットに集まった。







 この世界のお風呂は、田舎ではなかなかお目にかかれない高級なものだ。都にだって大きな宿屋や、お金持ちの家にしかない。ワットも村長と街へ行った時に、宿で入ったことがあるだけ……普通の家庭では沐浴か、桶で沸かしたお湯で体を拭くのが定番だ。

 私もローズと、いつも拭きっこしているよ。


「お風呂……お風呂かぁ。ならアレが使えるかもしれない!」


 以前、攻略本で見たいくつかの情報(・・・・・・・)を思い出しながら、私はにやりと笑みを浮かべ、皆に考えたことを説明した。


「それは良い案ゴプゥ。でも本当にそんなことが出来るゴプゥ?」

「任せてよ! こんな時こそ、攻略本の出番さ」


 確信が持てないゴプララの為に、私は神様に祈りを捧げる。ちゃんと自分で考えた答えが、可能かどうかを攻略本に教えてもらうんだ。


 そして輝いた攻略本を開き、私は笑みを零す。


この魔法とアイテム(・・・・・・・・・)を組み合わせれば、私の思い描いた『コーカン』を成立させることが出来るのだ。




 

 その後、私はすぐに村長とゴプリダに相談した。

 特にゴプリダにはやってもらいたい事があったからね。


「ギャギャ、問題ないゴプ。それならゴプ達にも作れる」


 ゴプリダは攻略本に確認を終えると、私の依頼を笑って請け負ってくれた。

 反対に村長は、半信半疑だ。


「本当にそんな事が可能なのかい?」

「うん、出来るよ。ただ、これだと村長の仕事が少し増えるんだけど……」

「構わないさ。そういう役目なら、むしろ喜んで引き受けるよ」


 そして村長も、私の案に笑顔で同意してくれた。

 まだまだこれからだけど、皆で協力して出した答えが認められて、本当に良かったよ。

 こみ上げてきた達成感で、私は思わずニヤケてしまう。


 するとゴプリダが、私達の顔を見渡して、深く頷いたんだ。


「ギャギャ、なるほど。オマエにとっての攻略本はこっち(・・・)か……」


 そう言って、いつまでも嬉しそうに「綺麗ゴプ!」と笑っていたよ。







 さて後は、必要な材料を集めないとね――


 そして私は股間を『ユグドラシルの葉』で隠した全裸男アナンダを、村外れの木の下へ呼び出した。


「あのね、アナンダにお話があるんだ」

「何だ急に……気味の悪い」


 ユグドラシル的にも、お願い事をするのは桜の木下が常識。


 ひらひらとピンク色の花びらが舞う中で、私は全裸男子アナンダと向かい合う。

 ちょっぴり体をモジモジさせて、上目遣いなのもユグドラシルの恩恵さ。


「ユグドラシルの神聖剣って知ってる?」

「なんだと!? エルフ族の中でも一部の者しか知らぬ伝説の剣を、なぜ貴様が知って……また攻略本というやつか」


 正解。ユグドラシルの聖剣の作り方を調べた時に、おまけの情報がいっぱいあったのさ。


「もし良ければ私が作ってあげてもいいよ?」

「本当か!? 一番里の全魔力を注いでも作成不可能な、伝説の剣だぞ!?」

「ふふん、マリーベルの魔力に不可能はないのさ」


 材料は聖剣と同じで、注ぎ込む魔力の量が違うだけだから作るのは余裕さ。

 案の定、ガッツリ食いついてきたアナンダに私は交渉を持ちかける。


「代わりに、アナンダの持ち物で『コーカン』して欲しいものがあるんだ」

「かまわん。神聖剣が手に入るのならば、どんな物でも差し出そう」

「じゃあ。ユグドラシルの葉と『コーカン』ね」


 そうして私が股間にある葉っぱに手を伸ばした瞬間――


 ずさーっと、アナンダが後ずさった。


「……どういうつもりだ」

「ちょっと作りたい物の材料に必要なんだよ」

「き、貴様、女が男からユグドラシルの葉を奪うことが、一体何を意味するのかをわかっているのか?」


 そんなのに意味なんかあるっけ?

 少なくとも私は知らないや。


「ユグドラシルに情報が無いってことは、どうせ一番里のローカルルールでしょ?

 代わりにシルキーの服も『コーカン』で付けてあげるから、さっさとよこせ」

「ちょ、ちょっと待て。未婚のエルフの女が、男にシルキーの服を渡すというのが何を意味するのか知らんのか!? や、や、や、やめろぉー!!」


 知らないよ。さっき何でもくれるって言ったから『コーカン』は成立しているのだ。


 抵抗するアナンダから、容赦なく葉っぱを引っぺがしてアナコンダを召喚だ。

 マリーベルはユグドラシルの葉をゲットしたよ!


「き、貴様は邪悪ではないが……破廉恥だぁー!!」


 その後、アナンダは「我の純潔がぁー」と内股で走っていった。気持ち悪いね。






 そしてもう一つ、私には絶対に必要なものがあるんだ。

 穴の中でずーっと落ち込んでいたローズに私は優しく声をかける。


「おねーちゃん」

「マリー……?」

「もう、いつまで落ち込んでいるのさ」


 これから行う『ある儀式』は、私一人では不可能だ。

 だから私はローズのことを頼るよ。

 だって――


「困った時は、絶対にお姉ちゃんへ相談するって約束したでしょう?」


 そして私の説明を受けて、ローズは立ち上がった。

 ニョーデル村の為に、私達姉妹は互いの手を取り合うのだ。



「任せて。マリーと一緒に――」

「うん、お姉ちゃんと一緒に――」



「「『コーカン』を始めよう」」














お知らせ(読み飛ばし可)






作者判断により、本日からジャンルをローファンタジーからハイファンタジーへと変更しました。

理由は活動報告に何度が載せておりますが、当初の予定よりハイファンタジー色が濃くなり過ぎた為です。ジャンル変更をしてもマリーベルの中身は変わりませんのでご安心下さい。



現在、ニョーデル村最終章。

これからもマリーとローズを宜しくお願いいたします!

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短編をupしました。暇つぶしにどうぞご覧下さい!
マリーベルと同じくギャグ要素多めの作品になります。
↓↓↓↓↓↓
異世界に転移した俺はカップめんで百万人を救う旅をする

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