01話 マリーは神に呪われる
短めです
はい、というわけで色々あったけど無事に朝を迎えたマリーベルです。
結局、昨夜のあれは何だったんだろう?
起床したローズにそのまま説明したけど、彼女も知らないって言ってた。
おまけに神様の像にごっそり持っていかれた魔力も朝になったら余裕で完全復活していたので、私の証言には信憑性が無かったよ。
「マリーが寝ぼけてたんじゃないの?」
とうとう正気を疑われた。ローズの瞳には私への哀れみが滲んでたよ。
そんな残念なエルフを見る眼をこっちに向けないで!
信頼という名で結ばれた姉妹にあるまじき事態だよ。
でもあれは夢なんかじゃない。だって現に証拠物品が目の前にあるんだもん。
ユグドラシル的解釈を適用すると【攻略】する【本】なんだからきっと凄いことが出来るはず!
私は攻略本をローズに見せたんだ。
「ほらほら、嘘じゃないよ。これが攻略本!」
「……大きくない?」
その意見には激しく同意した。
本当にでかいんだ、これ。
皮のごつごつした茶色い表紙は地面に立てたら私の太ももまでの高さはあるし、ページの厚みも握りこぶしより太い。
ローズが昔持ってたヒト族の本に比べて十倍は大きいんだ。
まるで盾だね、盾。
かさ張って邪魔なんですけど!
そして二人で攻略本のページを捲ってみると――
中はとてもとても綺麗な白紙だったよ。
「どうしよう、お姉ちゃん。何も書いてないよ」
「そうね、本当に真っ白! 攻略本ってこういうものなの?」
「……わかんない」
使えない。攻略本って使えないよ!
「どうせなら日記でも書く?」
うわぁって顔でローズは呟いてた。
この「うわぁ」は決して良い意味じゃない。
気持ち悪いとか、面倒くさいって感じの「うわぁ」だったよ。
なんだか完全に呆れられた。
見るからに妖しい本と、それを神様から貰ったと妄信する女の子を前にして、物理的にも心情的にもローズは引いてたよ!
愛情という名で結ばれた姉妹にあるまじき事態だよ。
「あたしだけでもしっかりしなきゃ」と決意を新たにしていたローズのお腹が朝食を欲する音を盛大に鳴らした。
とりあえず朝ごはんを食べよう! ってことで私達はかさ張って邪魔な攻略本を置いて移動を始めたんだけど――
いきなりゴズッと何かが私の後頭部に直撃した。
「うばぁ!」
「だ、大丈夫、マリー!?」
飛んできたのは置いてきたはずの攻略本だった。
なんとここで新事実。この本、私から離れないんだ!
だいたい二十歩以上離れると凄い勢いで私の元に飛んで来るの。
試しにダッシュして置き去りにしてみたり、攻略本を空の彼方に全力で放り投げたりしてみたけど絶対に私の元に戻ってくる。
しかも戻ってくるごとに猪の如く突進してくるから衝撃を受けるのが面倒臭い。
鋼の肉体が自慢のマリーベルだから無傷だけど、他の人なら大惨事だからね。
これ完全に呪いのアイテムだ。マリーベルは呪われたよ!
するとローズが私の両肩に優しく手を添えて言ったんだ。
「マリー、正直に話して。神様の像にどんな悪戯をしたの?」
ひどいよ。完全に犯人扱いだよ。
「大丈夫。お姉ちゃんが一緒に謝ってあげるから」
そのお姉ちゃんの幸せを願ったんだよ!
理不尽なローズの優しさに居たたまれなくなって思わず私は駆け出した。
「か、神様の馬鹿やろー!」
「あ、待ってマリー」
ひゅ――っ、ゴズッ!
早速、後頭部に天罰が落ちた。
この時は神様も攻略本も憎憎しくてたまらなかったけれど、私はすぐに手のひらを返すことになるんだ。
その引き金を引いたのはローズの食い意地だった。