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48話 マリーは不安を覚える(後編)



 勇者との決闘……もといアナンダがローズに叱られてから数日が経過している。


 あの日から私への襲撃はピタリと止んでいる。

 草むらから「おのれマリーベル!」と飛び出してくる全裸男はもういない。


 最近は一日一回全裸エルフがテンプレ化していたから急に静かになった気がするね。

 あんな男でも辺鄙な田舎村ではちょどいい見世物だったようで、村の子たちも「今日は裸の人来ないの?」と暇そうにしているよ。


 でも残念。

 変態ゆうしゃは美少女の言葉責めに屈したよ!




 ジーッ 




 勇者を失った世界はどうなるのかって?

 もちろん魔王が君臨するに決まってるじゃん。


 というわけで、私達は勇者など忘れて魔王ごっこに夢中なのだ。

 今度の私は孤独な魔王ではない。勇者シール以外は全員私の味方。圧倒的戦力差で正義を討つのさ!


 我が軍の目標? 

 当然これだ。


「にゃはは、魔王マリーベルは合法的におっぱいを揉める世界を作るよ!」


 そしたら懐刀のローズ(おっぱい)に裏切られて討伐された。


 衝撃的な結末を迎え、ポカーンと突っ立っている勇者と魔王軍。

 交差する視線の中心で、ローズは見る者全てをゾクゾクさせる冷たい微笑みを浮かべて言い捨てた。


「魔王様、女の子の嫌がることをしてはいけないわ」


 そりゃそうだ。

 マリーベルはグウの音も出ないよ!




 ジーッ




 ふと足を止め、私はその場所へと声をかける。


「……ねえ、かかってこないの?」


 けれど返事は無い。

 そこにはただ一本の木が佇んでいる。 




 ジーッ




 さっきからこの音は何だと思う? 


 答え、木の陰からアナンダが私のことを見つめてる音でした。


 こいつ襲撃はしなくなったけど、ずーっと隠れて私のこと見てるんだ。

 全裸に葉っぱ一枚の変態が一日中美少女の後をつけ回しているこの状況。


 ユグドラシル的にも完全に事案だよ!




 ジーッ 




 きっとローズに負けたショックが大きかったんだね。


 アナンダは勇者からストーカーに進化したよ!

 あ、ストーカーはエルフ語ね。


「ストーカーではない。勇者アナンダだ!」


 アナンダはムキーッと歯をむき出しにしながら、ようやく反応を返した。

 でもローズから不機嫌そうに睨まれると気まずさに耐えかねて視線を逸らしているね。


「だ、だいたい貴様は我のことを変態と呼ぶが、おかしくはないか?

 我は知っているぞ、貴様が夜中に全裸で走り回っていることを!」


 あうち、秘密の日課がばれてーら。


 なんてこったい、アナンダに向けられていたローズの睨みがそのまま私にレーンチェンジだ。

 やばいよ、これあとでお説教のパターンだよね。


 こんな時こそ落ち着け私。

 ケモミミから学んだクールな対応を実践する時は今。


 そして私は意味あり気に含み笑いを浮かべる。


「じゃあ訊くけど、ユグドラシル的に美少女シールの粗相は?」

「むろん御馳走だ」


 何を当たり前な……と舌打ちのアナンダ。

 村の子達は全員距離を取ってたけど、私はその姿に勝利を確信したね。


「じゃあ、おっさん(マジルさん)の粗相は?」

「ただの害悪だ」


 アナンダはそこまで言って気付いたみたい。


「ちっ、そういうことか……」

「ふふん、美少女に生まれなかった自分を恨むんだね」


 可愛いは正義。幼いは最強。

 パーフェクトなユグドラシル理論に隙は無し。


 完璧な論破を前に項垂れるアナンダ。

 優越感に鼻の穴を広げる私。


 そんなやりとりのおかげでローズの注意も逸らせたぜ。


「エルフって、エルフって……」


 なんか後ずさりされたけど気にするな。


 話題転換に無事成功。

 マリーベルは、はぐらかすを覚えたよ!





「それで今日はかかってこないの?」

「ふん、当然勝負するに決まっている。といいたい所だが……しばらくは様子見だ」


 私の問いに、アナンダはいつもと違って物静かな雰囲気で答えた。

 急にしおらしくなった態度が腑に落ちず、私は盛大に首をかしげる。

 すると彼はこめかみを押さえて大きなため息をついたんだ。


「最初に対峙した時にも伝えたはずだ。我は一方の意見を鵜呑みにするほど愚かではない。

 十三番の里からは貴様が邪悪な化け物だと報告を受けていた。実際、貴様はそう呼ばれるだけの力を持つ上に、原因はどうあれエルフの里を蹂躙したのも事実であろう?」


 アナンダは訝しげにローズ達を見回すと、小さく歯を食いしばる。 


「だがしかし……ここにいる者達はそんな貴様のことをただの女の子だと言うではないか。

 我はエルフ族の勇者だ。勇者は民の声を無下にしたりはしない。

 故にエルフの里か、貴様の姉か、どちらが正しいのかを我は正しく見定める必要があるのだ。

 討伐はそれが終わってからでも遅くはあるまい……」


 そう言っている間もアナンダは品定めするように私をジーッと観察していた。


「要はお姉ちゃんに叱られて反省したってこと?」

「人聞きの悪いことを言うな。一時休戦するだけだ」


 それでも聞く耳すら持たなかった里の奴らに比べれば随分マジだ。

 そして少なくとも今は敵じゃないなら私は素直に歓迎できるよ。


 だって『コーカン』出来るかもしれない相手が増えるってことだもんね!


 そんなことを考えてエルフ耳をピッコンパッタンさせていると、ローズは「マリーらしいわね」と満足そうに笑っていた。


 結果として近所に全裸の変態が住み着いたので危険度は増したような気はするが、私は初めて他のエルフと歩み寄れた気がするよ。







 そしてその夜の私は家でお姉ちゃんにべったりだった。

 寄り沿って座ったり、お手手をつないだり、お膝の上でごろごろしたりと今日のマリーベルはお姉ちゃんに甘えまくるのだ。


「ねえ、お姉ちゃん」

「なに?」

「んーん、呼んだだけ」

「もぉー、今日のマリーは甘えん坊ね」


 絶え間ないニコニコでほほを緩ませながら、私はローズと共にいる喜びをかみ締める。


 正直、今日みたいにエルフ族と向かい合える日が来るとは夢にも思わなかった。

 私が生まれてからずっと出来なかったことをローズはやってのけたのだ。


「お姉ちゃんはやっぱり凄いね」

「ふふ、だって私はマリーのお姉ちゃんよ?」


 私は膝まくらに頭を乗せたまま、クゥーンと犬のように喉を鳴らして返事をする。

 太ももでコチョコチョと動き続けるエルフ耳にローズは時々くすぐったそうに身悶えていたけれど、柔らかに微笑みながら私のほっぺたや頭を優しく撫でてくれたんだ。




 その後もベットに入っても私はお姉ちゃんにずっとじゃれ付いていたよ。


 改めて今日までのことを思い出すと、いろいろなことが嬉しすぎて私は全然眠くならなかった。

 けれどローズはそろそろ限界みたいだね。


 やがてうつらうつらとし始めて、最後にローズはこう言ったんだ。



「それに『コーカン』したじゃない」



 浮かれていた私は後になってその言葉のおかしさに気付く。


 静かに寝息を立てるローズの顔を見つめていて、ふと疑問に思ったんだ。



 ねえローズ。

 一体、誰と何を『コーカン』したの?











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短編をupしました。暇つぶしにどうぞご覧下さい!
マリーベルと同じくギャグ要素多めの作品になります。
↓↓↓↓↓↓
異世界に転移した俺はカップめんで百万人を救う旅をする

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