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46話 マリーは不安を覚える(前編)



 そろそろ冬も終わりに近づき、ニョーデル村は雪解けの時期を目前に控えている。


 最近は日の登っている時間も増えて、気温も徐々に上がってきているかな。

 同時に冬眠を終えた動物たちが顔を出し始めたので、森にも少しずつ活気が戻りつつあるよ。


 だがしかし、春になって元気になるのは普通の動物だけではない。

 今まさにローズとシールの対峙している生物などが良い例だ。


「いくわよ、シーちゃん」

「了解。任せてローズ」


 二人と対峙するのは馬車ほどの大きさがある赤いカエルの魔物だ。

 ローズは両手を前にかざして起動呪文スペルワードを唱えた。


「ファイボール!」


 手のひらから直径50センチ程の火の玉が飛び出し、カエルのモンスターへ直撃する。

 マゼットさん直伝。なんか火の玉が飛んでいって、どーん! となる魔法だ。


 ちなみにセンチっていうのはユグドラシル的測量単位である。他の種族はもっと違う単位で呼ぶらしいけど、私はエルフだからメートルとかガンガン使っていくよ。


 そんなことを考えているうちにシールが間合いを詰め、魔物に止めを刺した。 


 親友同士の鮮やかな連携だ。

 その見事さにマゼットさんはパチパチと拍手しながら「上手ねー」と間延びした声を上げていた。




 今日はニョーデル村付近の街道で魔物退治の実習をしている。


 獲物はこの時期に地面から沸いてくるカエルの魔物だ。

 大きいけれど動きは遅く、攻撃力もあまりないので駆け出し冒険者向けの獲物らしい。


 毎年街道付近に現れるのを村長達のパーティが狩っているらしいが、ご覧の通りローズが攻撃魔法を覚えたのでマゼットさんが実戦訓練に利用したのだ。


 参加者は私とローズとシール、そして見学のサリーちゃん。ワット達は今日はお休みだ。

 もちろん私とシルキーの服の存在がありきの計画であることは言うまでも無い。





 後衛担当のローズはマゼットさんから魔法使いの戦い方を教えてもらっている。


 でもさっきから少し浮かない顔をしていることが気になるね。

 するとローズは真っ黒な炭になったカエルのために涙を流し始めたんだ。


 魔物とはいえ命を奪ったことを悔いているのかな? 優しいね!


「悔しい……この子はもっと美味しくできたはずなのに」


 へへへ、違った。

 食材を無駄にした己の未熟さに怒りを感じていたんだよ。


 さすがローズ。

 肉食系乙女はいつだって自分に厳しいね。






 前衛役はユグドラシルの聖剣と銀狼の指輪を装備したシールだ。


 剣は切れ味が良い上に木だから軽いし、指輪の効果で素早く動けるからシールの攻撃力とスピードは並みの冒険者以上らしい。

 母親のカシーナさんも娘の動きを見て血が疼いたようだ。ノリノリで戦い方を教えているよ。


「そうさシール。そこでズバッとして、ガンッとやって、ドーンと終わらせるのさ!」


 ラシータと同じ気合解説だね。

 さすが母子である。


 そうそう、それとシールが新必殺技を編み出したので報告しておくよ。


「ウルフパンチ」


 バチバチっとシールの拳に電流が走り、魔物へ魔力が打ち込まれる。

 雷の魔力によって体内を焼き尽くされたカエルはプスプスと黒煙上げて絶命した。


「漏らすまでもない」


 はい、もちろん決め台詞込みの必殺技ね。


 これは最近やっと覚えた電撃初級魔法『ビリット』の応用だ。普通はマッサージ程度の威力の雷魔法を、ローズ直伝のお姉ちゃんパンチと組み合わせたのだ。

 直接魔力を叩き込んで発動させると初級呪文でも骨の髄までビリビリできるらしい。


 ローズ流のエルフパンチや二段ジャンプは威力こそ低いがエコ仕様。

 多用はできないが、それでもシールは無事に技を習得できたそうだ。


 軽快に動き回り、剣で切りつけ、パンチもいける。

 シールの成長は著しいね。

 




 本日の私はサリーちゃんを背負い籠に入れて、ちょいちょい遊撃をしている。

 指示を出してもらって私がその通りに動くというプチ司令官ごっこをしていたのだけれど、やっぱりサリーちゃんはシールやローズが羨ましいみたい。


「わたくしもお姉さま達と一緒に戦ってみたいですわ」


 うーん、それはさすがにマゼットさんに怒られそうだ。

 サリーちゃんはまだ六歳だもんね。


「じゃあさ、私がエルフパンチして弱らせた奴を倒してみるのはどうかな?」

「やってみたいですけれど……よろしいのですか?」

「シルキーの服着てるし、エルフパンチした奴はほとんど動けないから大丈夫だよ。

 それにサリーちゃんに作ったアレ(・・)も試してみたいしね」


 私は決断すると、モンスターを探すために高い木のてっぺんへすばやく登った。


「んー、どこかに手頃なのいないかな?」


 すると遠くの方で冒険者の格好をした人達が巨大カエルに囲まれているのを発見した。

 たまたま近くに来ていた新米冒険者かな?

 みんな若くて動きもぎこちないや。


 なんだかあの人たち負けてるっぽいし丁度良いね。


「いくよサリーちゃん」

「いつでも結構ですわ!」


 背後から響く幼女のウキウキした声を合図に、私は木の上から弾丸の如く飛び出した。

 冷たい空気の中を高速で横切ると、キーンという高い風切り音があたりに響く。


 この時に発生した風圧や衝撃はかなりのものだが、そこは高性能なシルキー装備完全版。

 サリーちゃんは少し揺れた程度にしか感じていないだろう。流れる景色を眺めて私の背中でキャーキャーと笑顔で喜んでいるぐらいだ。


 むしろ大地を揺らす轟音と地響きに驚いているのは現場の冒険者達だ。

 ただでさえ敗北秒読みなのに、更に凶悪な魔物が来たと思ったみたいだね。全員が「何だ、何が起こったんだ!?」と泣きべそを掻きながらこっちを見ていたよ。


 残念。魔物じゃなくて幼女二人組でした!


「いっくよー、エルフパンチ」


 とりあえず私は着地と同時に、すぱぱーんと巨大カエルを瞬殺。


「「ま、魔物が一瞬で子供に……? しかもエルフゥー!?」」


 若い冒険者達は脳が情報を処理しきれずにその場でフリーズだ。まあ、放置でいいね。

 私は魔物が弱ったのを確認すると背中のサリーちゃんへ呼びかけた。


「もういいよ」 

「うわぁ、ありがとうございます。マリー様」


 そしてサリーちゃんは籠から「よいしょっ」と降りると、カエルに馬乗りして――


「さあ、お召し上がりになってぇー!!」


 そして木苺をねじ込む。

 そう、魔物が相手でもねじ込んだのだ!


 すると巨大カエルはまるで石化したようにカチンコチンに固まって動かなくなった。


 これはサリーちゃんが装備している黒手袋の効果だ。

 黒をベースに全体を巡る銀のライン、そして手の甲には可愛い熊さんの刺繍入りというこだわりの一品はミミナガアルケミストによって創り出されたマリーベル印のマジックアイテムなのである。

 その素材はなんとかつて激闘を繰り広げたゴルゴベアードだ。


【名 称】

 石化熊の手袋(ゴルベアグローブ)


【効 果】

 自身の攻撃に『硬直効果』の付与。

 このアイテムで攻撃した場合、一定の確率で相手の体から自由を奪うことが可能。


 うん、あのねじ込みが攻撃判定されているのにはビックリだね。

 一応なんで木苺まで敵にねじ込むのか確認はしたんだ。


「いろいろと試した結果、この方法が一番効果的だったのですわ」


 いったい誰で試したのかな?

 暗く歪んだ瞳で「くふふ」と笑うサリーちゃんが怖くてそれ以上は訊けなかったよ。


 幼女が馬乗りで魔物を無力化する。

 その衝撃的な光景を目の前にして冒険者の人たちも驚いてた。


「あの無駄の無いねじ込み……まさか彼女は噂に名高い暗殺者集団ボルドリリーの関係者なのか!?」って騒いでいるけど、まあ似たようなものだよね。


 どこまでも進化を続けるサリーちゃんのねじ込み道。


 マリーベルは彼女の将来が不安だよ!







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短編をupしました。暇つぶしにどうぞご覧下さい!
マリーベルと同じくギャグ要素多めの作品になります。
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異世界に転移した俺はカップめんで百万人を救う旅をする

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