42話 マリーはみんなと遊ぶ(前編)
勇気を出して外へ遊びに出たゴプリン族の子供たち。
ゴブリンそっくりな集団の来訪に村の皆は少しだけ目を見開いたけれど、次の瞬間には一同が口を揃えて笑っていた。
「「ペコロン姉妹のすることだしね」」
だってさ。
ニョーデル村は完全に私色へ染まってるよね!
そして最近、村の子供たちの間で流行しているのが当てっこゲームだ。
「「ギャギャ、ゴプはだーれだ?」」
ゴプリン族の子供をまだ見分けられないことを利用したこの遊び。
クルクル回って入れ替わったり、家の影に隠れてシャッフルしたりと、色々な高等テクも生まれつつあるゲーム性が高い遊戯である。みんな夢中になってやっているよ。
ちなみに私が優勝ね。
脅威の的中率100パーセントだ。
それとワットはゴプララの見分けだけはつくみたい。
ずっと一緒にいたもんね。
「ゴプララはお前だろ?」
「ギャギャ、どうしてわかるゴプゥ?」
「笑った顔はお前が一番可愛いからな」
「ゴプゥ……ワット君の笑顔も素敵ゴプゥ」
なんだか二人の間にピンク色の靄が発生している。
それにいつの間にか手を握って、鼻と鼻がくっつきそうな距離で囁き合っているよ。仲良いね!
でもワットには悪いけど、ローズとシールとサリーちゃんもわかるってさ。
「だって友達じゃない」
「だから当然、見分けがつく」
「そうですわ。ゴプララさんは大事なお友達ですもの」
三人の言葉にゴプララは「皆、ありがとうゴプゥ」と薄っすら涙ぐんでいたよ。
背後から隠れん棒で覗き見している大人たちが「「ギャギャ、友情ゴプ、綺麗ゴプ!」」と騒いでいるのがちょっと邪魔だけど、こうしてゴプリン族の子供達は無事に村へ受け入れられたんだ。
そしてその後、ゴプリン族の子供は毎日のように村で遊んでいる。
汚れたら動揺するのは相変わらずだけれど、そんな時は私やローズが水魔法をぶっかけてあげた。
すると村の子たちも面白がって井戸の水をかけてあげるようになったのだ。
今では誰が一番最初に水を汲み上げるか競争になるぐらいである。
ゴプリン族は水をかけられるのはむしろウェルカムなのでお互い楽しそうだ。
ぶっかけもイケる。
ゴプリン族はつくづく奥が深いね!
そしてもう一つ、ゴプリン族の子供たちが村で頻繁に出入りしている場所がある。
それはマジルさんのいる交換所だ。
「「ギャギャ、こんにちわゴプ!」」
「お、来たかガキども」
見た目が山賊の厳ついおっさんと、見た目がゴブリンの集団。
一見バトルが始まりそうな予感がするが、この店で始まるのはもちろん『コーカン』である。
皆、私と『コーカン』してから交換所に興味があったそうだ。
「かかっ、ゴプリン族も嬢ちゃんの交換好きに染まったってか?」
マジルさんは陽気に笑い終えると、キリリと表情を引き締めた。
「だがたとえ子供相手でも仕事に手は抜かねえぜ。
さあ、何と何を交換するんだ?」
するとゴプリン族の子供達は石や木の実を我先にと差し出して注文を入れた。
「「聖剣が欲しいゴプ!」」
「……全員、嬢ちゃんの客じゃねえか」
種族を超えて大人気、ユグドラシルの聖剣である。
結局、半泣きになったマジルさんをカウンターから追い出して私が木剣を配ったぜ。
ばら撒け聖剣。
マリーベルは勇者を量産したよ!
村人との仲も良好。汚れも徐々に対応できるようになってきてゴプリン族との交流は私の目から見ても順調に進んでいるように思えた。
しかし彼らにはまだ一つだけ大きな問題が残っていたんだ。
それは森で遊んでいるとシールの姉のラシータが現れた時のこと――
「ゴ、ゴブリンかっ!?」
「「ギャギャギャ、ヤンキーゴプ、逃げるゴプ!?」」
あーあ、ラシータのメンチ切りにビビッて皆が逃げちゃった。
「ヤンキーじゃねえし、別に脅したつもりはねえよ」
でも歩き方も乱暴なオラオラ系だから移動する姿だけでゴプリン族が怯えてるよ。
ラシータは「まいったな」とぼやきながら頭をガリガリと掻いている。
「実はボスに相談があるんだよ」
「私に?」
「ああ、ゴプリン族の奴らのことなんだが――」
ラシータによると今回、相談を持ちかけているのは狩人の面々らしい。
ゴプリン族は見た目がゴブリンだ。
しかし私によって角の色の違いが伝えられ、村に頻繁に出入りするようになって子供の顔も少しずつだが見分けられるようになっている。現時点で魔物と間違えられてはいない。
けれどそれは村の中での話なのだ。
いざ森に入り、遠目から見ると狩人たちは彼らと魔物のゴブリンを全く見分けられないらしい。
もちろん近づけばわかるが、もし本当に相手がゴブリンだったら大怪我である。
「かといって今みたいに毎度、声を張り上げてもビビらせるだけだろ?
狩人的にもあまり音は立てたくねえしな」
「つまりもっと簡単に見分ける方法を教えて欲しいってこと?」
「ああ、ボスなら角以外に何か知ってねえかと思ってな。
今はまだ大丈夫だが、このままだといつか間違ってゴプリン族に矢を射っちまうかもしれねえ」
それはまずいね。今日みたいに森で遊ぶことも多いだろうし。
私は魔力の感じとかも含めて判断しているから遠くでもわかるけど、他の人はそう簡単にはいかないようだ。
ローズ達にも相談したけど、見た目だけでは多分無理だろうって言ってたよ。
するとローズが「何か目印があればいいんじゃない?」と提案してくれたんだ。
「服を着るのは種族的にも厳しくても、他の物で何か目立つものを身につけてもらうのはどうかしら?」
「ギャギャ、それが綺麗なものなら多分大丈夫ゴプゥ」
その言葉にゴプララがブンブンと首を縦に振る。
だがしかし、綺麗で目立つ目印か……。
シルキーの服も考えたけれど、全く汚れないわけじゃないんだよね。
せっかく皆で遊べるようになったんだから、何とかしてあげたいな。
「こんな時こそ、コレの出番だね」
だから私は祈ったんだ。
ゴプリン族がもう怯えなくてもいいように。
これからも他種族と一緒に遊んでいられるように。
エルフ族である私に出来ることがあるのなら教えて欲しいと神様に。
その祈りに応えるたのはもちろん攻略本『エルフの章』
光り輝くページに現れたのはこの世でゴプリン族に最も似合うアイテムだった。




