40話 マリーは外で遊ぶ(中編)
いざ始まったお外で遊ぼうよ大作戦。
内容は簡単だ。
ゴプララと外で遊んで他の子達を誘い出すだけ。
そう思っていたんだけど、これが意外と大変だったんだ。
いつもゴプリン族が遊ぶのは安心のできる室内。
だから外敵と汚れが蔓延る外は緊張してしまうそうだ。
要は気が抜けないから息抜きにならないってことね。
だから動きもカチコチでぎこちなくなってしまい、よく躓いて転ぶんだ。
今日も鬼ごっこ中にころんだゴプララをワットが下敷きになって受け止めたよ。
「危ねえ!」
「ゴ、ゴプゥ!? ありがとう」
「べ、別にお前のためにやってるわけじゃ……」
「ゴプゥ……ワット君……」
怖かったんだろうね。
ゴプララは顔を真っ赤にしてお礼を言ってたよ。
やるじゃん。
ワットは男を上げたよ!
こうして生まれたゴプララ専用クッション、その名はワット。
その精度は恐ろしいもので、一日に何度も倒れるゴプララを確実に抱きしめ続けていたよ。
でも繰り返すうちにワットの手がゴプララの胸に触れてしまったんだ。
「ギャッ、ギャギャ!?」
「す、すまねえ!」
「き、気にしないでいいゴプゥ」
二人は視線を逸らしてモジモジしていたね。
なぜか最近、遊んでいるとピンク色の空気が蔓延るんだ。
なんでだろ?
ちなみにマリーベル専用クッションはもちろんローズのおっぱいだよ!
その柔らかさを皆に自慢してやろう。
それ揉み揉み揉みー。
「ぁん! 駄目よマリー!? みんながぁ……みんなが見てるからぁー!!」
「見てるんじゃないよ。見せつけてるんだよ!」
「んくっ、エルフってぇ、エルフってぇー!!」
その後、顔を真っ赤にしたシールとサリーちゃんに引き剥がされてめっちゃ怒られた。
「マリーは妹……マリーは妹……。妹なんだから……」
ローズは視線を逸らしてモジモジしていたね。
またしばらく口利いてくれなさそう。
ワットは許されたのに、なんでだろ?
そうそう、遊びの他にもう一つ進展したことがある。
ワットに二段ジャンプとエルフパンチを教える『コーカン』がやっと成立したのだ。
悩んだ末にもやしっこが持って来たものとは……
「絵本?」
「ああ、真なる王の物語だ。お前も話だけなら聞いたことあるだろ?」
昔、ローズに教えてもらった地球へ皆を連れていってくれる王様の話ね。
シールとサリーちゃんも同じ絵本を読んだことがあるらしく、『コーカン』して私にも是非読んで欲しいそうだ。ぱらぱらと捲ってみたけど、最後のページは王冠を被った王様が皆に囲まれてるシーンで終わっていた。
するとシールがその王様を指差したんだ。
「これ、ボス」
少し弾んだ声で尻尾とケモ耳をくりんくりんさせている。
サリーちゃんもシールの発言に「そうですわ。マリー様ですわ」と同意していた。
「でもこの話の主人公ってヒト族だし、おまけにおっさんじゃん。どこが私なの?」
「「ナイショ!」」
綺麗に声を揃えた二人は「「ねー」」と更に相槌まで打っていた。
くそう、王に対して隠し事とはこれいかに。
どっちにしろヒト族の文字はまだ読めないので後でローズに読んでもらおう。
しかし『コーカン』はいいが、ワットにしてはセンスが良すぎて気持ち悪いね。
「ゴ、ゴプララにも考えるの手伝ってもらったんだよ。別にいいだろ?!」
頬を赤く染めながらアワアワするワット。
どうやらゴプララを部屋に招いて『コーカン』する物を選んでもらったらしい。
仲良いね!
するとワットはキリっと表情を引き締めた。
「守りたいものができたんだ……俺は絶対に親父よりも目立つ男になってやる」
「ゴプゥ……ワット君」
ゴプララは口元を両手で押さえながら「ギャギャッ」と声を震わせていたよ。
目の端には少し涙が滲んでいる。
きっとゴミでも入ったんだね!
一緒に遊ぶようになってからゴプララは頻繁に村へ出入りするようになった。
村長から話は聞いていたけれど、実際にゴプリン族を見てみんな驚いていたよ。
やっぱり魔物のゴブリンとは見分けがつかないみたい。
でもそんな時はワットがゴプララを庇うように前へ出て守ってあげるんだ。
さすが専用クッション、役目を自覚しているね。
そして最終的にワットは――
「ほら、手出せよ」
「ゴプゥ?」
「手を繋いでおけばコケても助けられるし、みんなもすぐにゴプリン族だってわかるだろ」
「ギャギャ!? は、はいゴプゥ……」
こうして二人は村の中ではいつも手を繋いでいるようになったのだ。
少し歩調の速いワットと、何故か蒸気を上げながら俯いているゴプララ。
そして――
「ギャギャギャ!? む、娘には……娘にはまだそれは早いゴプ!!」
姿を隠す魔法『かくれん棒』で常に二人をつけ回す父親。
皆は気付いてないけれど、私には最初っから丸見えなんだぜ?
でも言わない。
黙っているのと『コーカン』でお菓子くれたからね。
へへへ、ゴプリダも悪よのぉ。
マリーベルは賄賂を貰ったよ!
そしてその数日後――
「「純愛だゴプ。綺麗だゴプ!」」
ワットとゴプララの背後には父親だけでなくほぼ全員のゴプリン族がいた。
もちろんみんな魔法で隠れているよ?
ゴプララが躓いたのをワットが受け止め、その後二人の熱っぽい視線が絡みあい、自然と手を繋いで歩き出す。その光景を種族一同で眺めているのだ。
「「ギャギャ! 綺麗、綺麗!」」
そうやって何十本も立ち並ぶ電信柱の影からゴプリン族は二人を見守っている。
あ、ゴプリダだけは歯軋りをして、たまに口から血を吐いてたね。
なんだか思惑とは少し違うような気がするけれど、ゴプリン族は他種族に興味を持ってくれたみたい。
子供も大人も自ら外出を始めたよ。
ゴプリン族の異種族間交流までもう一押し。
マリーベルはまだまだお外で遊ぶのだ!




