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30話 マリーは勇者に会う



 その日はなんとなく外出する気になれなかったのでお家の中でローズとゴロゴロしたり、遊びに来たサリーちゃんと人形遊びをしていた。

 部屋を暖める薪のパチパチと燃える音を聞きながら、こんな風にまったりと過ごすのもたまにはいいよね。


 でもそんな時に、シールが慌てた様子で家にやってきたんだ。


「私にお客さん?」

「うん、村の入り口でボスを探してた」


 シールの話によると、知らない男がやってきて「マリーベルというエルフはいるか?」と尋ねているそうだ。

 この雪の中にわざわざこんな田舎村を訪ねてくるだけでも珍しいのに、少女を探して回るなんて怪しい事この上ないね。

 とりあえずローズとサリーちゃんも連れて、その不審者を見に行くことにした。





 まだ雪の多い広場で待っていたのはフード付きマントに身を包んだ二十歳ぐらいの若い男だった。

 背も足もスラっと高い。体は細いが中身は相当鍛えられているのだろう。佇まいにも風格があった。

 濃い緑色の髪は背に届くほど長く、顔の肌は透き通るように真っ白だ。目はキリッと引き締まったように鋭く、瞳は私と同じ碧眼だ。鼻も高く、唇も小ぶり、そんな顔のパーツ一つ一つがバランスよく整っている姿は、なかなかの美形と呼んでいいだろう。


 若い男は低めの声を唸らせると、鋭い眼光で私を射貫いた。


「貴様が十三番のマリーベルか……?」


 十三番……その呼び方で私はピンときたよ。

 けれどわからないローズは小声で私に問いかける。


「十三番ってどういう意味なの?」

「自分の生まれたユグドラシルの番号だよ。里や大森林のことをエルフはその番号で呼び分けるんだ。ここのユグドラシルは十三番なの」

「じゃあ、あの人はもしかして……」


 その言葉を遮るように、男はフードを外して声を高々に宣言する。

 同時にピコンとフードの下から現れたのは私と同じエルフ耳だ。


 そう私のことを番号で呼ぶこいつは――


「我は一番のユグドラシルより生まれしエルフ族の勇者アナンダ。十三番の里からの依頼により貴様の討伐に参った。我と尋常に立ち会え、マリーベル!」


 男は木剣もといユグドラシルの聖剣を振りかざす。

 その姿を前にローズはコテンと首を傾げた。


「……痛い人?」


 そうなるよね。いい歳なのに木の棒振り回して勇者と名乗るのは超痛いよね。


「痛い人ではない、本物の勇者アナンダだ。マリーベルに敗北した十三番の勇者のような紛い物と一緒にするな!」


 自称勇者は血管を浮き立たせて、不機嫌そうに叫んでいる。

 村中に響くような大声を聞きつけて、他の人たちもワラワラと集まってきた。そして全員に「エルフだ。ありがたやー」と拝まれた。さすが勇者(笑)だね。


「ええい、拝むな! これだから他種族とは係わり合いになりたくないのだ」


 アナンダは不機嫌そうに眉間にシワを寄せている。やっぱり拝まれるのはエルフの宿命なんだね。でも急にやってきて勇者だー、討伐だーと言われてもわけがわかないや。


 するとローズが何かを思いついてポンと手を叩いた。


「シルキーさんなら何か知っているかもしれないわ」

「そうだね。シルキーに聞いてみよっか」


 困った時のシルキー頼り。私は起動呪文スペルワードでシルキーを召喚する。

 でも小さな妖精は私と勇者を見比べると顔色を真っ青にさせたんだ。


「……ついにチェンジですの?」


 そして途端に泣き出してしまった。またトラウマか。 


「わかってましたの、わかってましたの。エルフにとって、わっち達は替えのきくただのオモチャ。気に入った容姿のシルキーを見つけたら『げへへ、お前と俺のシルキー交換しようぜ?』という取引を当然のように始めるゲス野郎の集まりですの。

 欲望の赴くままに人のことを辱めておいて、飽きたら次のシルキーへ。そうやって次々とシルキーを蹂躙していく生物。それがエルフですの!」


 大きな声で言わないで欲しいよね。皆が引いてるじゃん。

 でもシルキーの悲痛な叫びの中でも勇者(笑)はケロっとしてた。


「ふん、何を当たり前なことを」


 所詮、こいつもエルフか。


 とりあえずシルキーに事情を説明すると「わっちを生き字引のように使うのはどうかと思いますの」と呆れられた。まあまあ、後で服を作っていいからさ。


「勇者とはエルフの里のお使い係のことですの。引きこもりのエルフではありますが、ああやって自分は特別な存在だと勘違いする若者が里に一人くらいはいるのです。

 そういう思春期特有のアレが発病しているエルフに勇者の称号を与えて、人里に買出しに行かせたりしますの。他のエルフたちの暇つぶしに面白いものを見つけてこさせる。

 ただそれだけの浮かれた存在ですの」


 つまりエルフ公認の勇者ゴッコか。やっぱりただの痛い大人じゃん。


「勇者ゴッコではない。私は本物の勇者だ! 聖樹ユグドラシルから生まれたこの聖剣を扱えるのが何よりの証拠。私はエルフ族を導くべく、この世に選ばれた存在なのだ」


 誇らしげに太陽へ聖剣をかざしているところ悪いけど、私の隣でシールも同じの持ってるよ。

 この人、完全に里の人たちに騙されてるじゃん。なんだか痛々しさを超えて可哀想になってきたよ。

 そんな同情の視線を向けていると、アナンダは何を勘違いしたのか「ようやくわかったか」と偉そうに胸を張る。


「それで私とは全く関係ない里の、おまけに自称勇者が何で私を討伐するの?」

「今まで散々エルフの里を蹂躙しておいて何をぬかす! 更に最近では十三番の勇者から聖剣を強奪したそうではないか。この事態を重くみた十三番の長老達が、我々一番の里へ正式に救援を求めてきたのだ」

「最初に襲ってきたのはあっちだし」

「ふん、口ではどうとでも言える。それに我は貴様の悪行をこの身を持って知っているぞ!」


 ……どういうこと?

 心当たりが無さ過ぎてハテナマークを浮かべる私に、アナンダは血管がはち切れそうな勢いでまくし立てた。


「我も一方の主張を鵜呑みにするほど愚かではない。故に討伐する前に貴様が噂通りの危険生物であるかを観察することに決めたのだ。だというのに……

 その為にこの村へ近づけば空から降ってきた謎の水晶が脳天を直撃し、倒れた先には緑の毒に染まった雪と底深き大穴だ。そしてかろうじて穴から這い出し、なんとか解毒に成功したと思ったら今度は三首になった鶏の化け物に襲われた……

 そしてこの全ての事柄に貴様の魔力を感じたぞ、マリーベル!」


 ……属性調べた水晶と、モグラの毒と、回復魔法をかけた鶏だね!


 勇者ってもしかしてツイてない奴のことなのかな?

 そんなことを考えてたらアナンダの頭に鳥の糞が落ちてきてた。「おのれマリーベル!」って怒ってるけどそれは私のせいじゃないね。


 納得いかん。マリーベルは責任転嫁されてるよ!




 不幸な事故とはいえ頭ごなしに決め付けるアナンダの態度にカチンときたね。ローズも腹が立っていたみたいだけれど、あんなのはお姉ちゃんが出る幕でもないよ。任せといて!


「いざ尋常に勝負せ――」

「エルフパンチ」

「ゴッファ!?」


 お望みどおりに勝負して瞬殺してやったよ。

 そして全裸に剥いてやった。向こうは私を討伐にきているんだから当然の報いだね。


 でも自称勇者のズボンの中から偉いもんが出てきて周囲は騒然となり、事態は急変する。


 ――なんとアナンダの股間から巨大なアナコンダが出てきたのだ。


 あ、もちろん本物じゃなくてサイズ的な意味ね。



「え、エルフって、エルフってぇー!!」


 ローズは顔を真っ赤にして手のひらで顔を覆ってる。でも指の隙間からちょっぴり見えてるね。


「お父さんのと全然違う!」


 これはサリーちゃん。動揺して素に戻っているね。しかしながら私の中でユグドラシルが歓喜するこの台詞選び。まったく素質の高い幼女だぜ。


「父さんの方が凄い」


 ふんぬ。と自慢げなシール。マジか、マジでか!? このお父さん大好きっ子め。


 そして周囲にいた獣人女子たちは全員舌なめずりだ。獣人族は男も女も欲望に忠実だよね。

 獣人族は男も女も肉食系。マリーベルは種族の本能を目撃したよ!


 まあ、あとは若いものたちに任せて私は遊びにいくか。

 マリーベルは勇者も大蛇も興味ないからね!


「じゃあね、アナコンダ」

「違う、我はアナンダだ!」


 何か、わーわー騒いでるいけど自称勇者は放置である。

 マリーベルは新しくゲットした聖剣を使って皆で勇者ゴッコをして遊ぶのだ!


「自称ではない。本物だー!!」


 その後、気付いたら自称勇者はいなくなっていた。

 獣人女子に囲まれた彼がどうなったのかを知る者は誰もいない。


 うーん、哀れな自称勇者である。










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短編をupしました。暇つぶしにどうぞご覧下さい!
マリーベルと同じくギャグ要素多めの作品になります。
↓↓↓↓↓↓
異世界に転移した俺はカップめんで百万人を救う旅をする

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