27話 マリーは魔法を学ぶ(前編)
皆は覚えてる? 私が以前、村長の奥さんのマゼットさんと『コーカン』したことを。
あの時シルキーの裁縫教室を開く代わりに、私はとある授業を依頼したのだ。
今日はそれを受けるべく、皆で近所の川原に集合している。ちょっと雪が多いけれど、これから受ける授業は村の中でするには危ないからね。
「それじゃあ、授業を始めるわよー」
「「はい、マゼット先生」」
準備ができたところで先生役であるマゼットさんの間延びした声が響き、私達は元気良く手を上げて返事をする。皆、うずうずしているね。
ふふふ、実は今回、『コーカン』で魔法を教えてもらうのだ。
なんとマゼットさんは元魔法使いなのである。昔、マジルさんたちのパーティーで村長と二人で後衛からブイブイいわせていた猛者らしい。情報提供者はマジルさんだ。
のんびりした雰囲気の人だけど、女は見かけによらないね。
その話を聞いた私は、迷わずマゼットさんにお願いした。私は攻略本のおかげで魔法が使えるようになったけれど、ローズは未だに使えないからだ。せっかく魔力に目覚めたのだから色々と楽しんでもらいたい妹心なのである。
案の定、魔法の習得を前にローズはずっとソワソワしているよ。
「これであたしも魔法が使えるようになるかしら」
「きっと使えるよ。お姉ちゃんは何をやらせても器用だもん!」
「ふふっ、マリーにそう言われると何だか本当に出来そうな気がするから不思議ね」
ローズは頬を柔らかく綻ばせながら、たゆんたゆんの胸を大きく張った。
「任せて。マリーに負けないぐらい凄い魔法を覚えて、いっぱいお肉を焼くんだから」
へへへ、さすがローズ。
迷いの無い肉一択。才能も魔法も無駄遣いだね。
でも喜んでくれているから口にはしないのだ。
都合の悪いことはあっちにポイ。マリーベルは空気を読むを覚えたよ!
今回の授業のもう一人の参加者はシールだ。
あまり量は多くないが、シールの家はマジルさん以外は魔力持ちらしい。
「シールはお母さんから魔法を教えてもらったことないの?」
「うん。獣人族の種族魔法は肉体を強化するものが多いから、今は体を鍛えるようにだけ言われてる。それに――」
「それに?」
「年齢制限もある。ほとんどの獣人族の魔法が十二歳から」
そういえばエルフ族の魔法にも年齢制限があったね。例の認可条件というやつだ。
話によると彼女のお母さんは種族魔法で肉体を強化して戦うバリバリの前衛タイプらしい。シールもそれに習って今まで体を鍛えることに注力していので、本格的な魔法の授業は今回が初めてなんだってさ。
ちなみにサリーちゃんは少し離れたところで他の子たちとかまくら作りをしているよ。
皆には魔力がないからね。でも羨ましそうにこちらを見ていたので魔力に目覚めるかどうかは保障できないけれど今度ナナカラーバナルをあげる約束をした。
かまくらはそれと『コーカン』である。後で完成したら、皆で一緒に遊ぶのだ。
そしてあと一人生徒がいる。
「なんでペコロン姉妹がいるんだよ」
不機嫌そうなもやし。もといヒョロガリ少年なマゼットさんの息子ワットだ。
ちなみにペコロン姉妹というのは私とローズのことね。ペコロン茶ばかり飲んでいたらいつの間にかあだ名になっていた。
「服作りを教えてもらうのと交換したのよー」
のんびりと話す奥さんの肩の上でシルキーが「そうですの」と同意する。
裁縫教室を通して、マゼットさんとシルキーはとっても仲良しになったね。
「シルキーちゃんのおかげで皆の裁縫の腕がメキメキ上がっているわぁ。それに色々な素材の作り方を知って仕事も増えたの。おかげで村はとっても助かっているのよー」
「うふふ、皆様の情熱にわっちも胸を打たれたのです。春になり本格的に服飾の仕事が始まればニョーデルブランドが世に旋風を巻き起こしますの」
「おかげで春になったらいっぱい人を雇わないといけないわ」
「ねー」と声を合わせる二人の瞳は燃えていた。野心に燃える巨乳奥様と妖精である。
ちなみにシルキーは今回、私のお目付け役としての参加らしい。
私がマスターなのにね。解せぬ。
「当然ですの。マスターのうっかりでこの村が地図から消えたら大変なのです」
「うふふ、シルキーちゃんったら大げさねー」
「……。笑っていられるのは今のうちですの」
シルキーとマゼットさんの明暗がくっきり分かれたところで授業開始だ。
ワクワクのローズ、尻尾フリフリのシールと不機嫌なワット。表情が引きつっているシルキーに、のほほんとしたマゼットさん。以上、このメンバーである。
……まとまりないね。とにもかくにもマリーベルは魔法の勉強を始めるよ!




