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26話 マリーは使い方を覚える(後編)



 狩り大会が始まり、私はシールと二人で獲物探しを始めた。

 ローズ達はスタート地点でお留守番である。特にサリーちゃんはまだ六歳。さすがに体力がもたないので、ローズが審査員という名目でお守りをしている。

 残る二人に代わり、必ず優勝すると約束したので私もシールも張り切っているよ。


 しかしこの寒さで獲物は少ない。いくら私が確実に仕留められる強さを持っていても、相手がいなければ意味がないのだ。


 けれど……秘策ならあるのさ。とっておきのアレがね。


「いくよ、シール。索敵用お漏らし(シールスカウター)を発動だ!」

「了解、ボス。大物を釣り上げてみせる」


ミッションを得たことでシールは瞳に炎を灯す。

 どんなに格好をつけていても漏らすだけだなのだが、クールケモミミ美少女という付加価値がつくのでむしろグッジョブとのユグドラシルのお墨付きだ。だから頼りになる相棒だと私は胸を張って言うよ。


 そしてシールを担いで走り回り、手当たり次第に索敵していると――


「む、ボス。ここに黄色がいる」


 ぴくんと反応もらしたシールが迷わず足下の地面を指差した。

 黄色ってことはそこそこの大物か。以前のミツグラシの時みたいに地中で埋まっているってことかな?


「多分そう。間違いなく何かいる」

「黄色なら獲物としても申し分ないね。任せてよ!」


 私はニカッとご機嫌に笑うと、ご自慢マリーベルパワーで獲物を地面から掘り出した。

 結構深くまで掘り進んで出てきたのは――


「なにこれ。モグラ?」

「……知らない。初めて見る」


 牛ぐらいのサイズの筋肉質なモグラだった。おそらく魔物だろう。体表が緑色の毛に覆われていて、魔力を持っているのを感じる。もちろんエルフパンチで処理済だ。


「これならお肉の量もたくさんだし、珍しそうでいいんじゃない?」

「確かにローズが喜びそう」


 いつもローズが解説してくれるから気にしたことなかったけど、私達って知識がないね。

 知らないけど美味そう。私達、感覚派コンビはそういう理由でこの緑の巨大モグラを獲物に決めてしまったのだ。


 そしてそれが失敗だった―― 




「ごめんね。この子は食べることが出来ないの」


 ローズが眉をハの字にして申し訳なさそうに告げてきた。

 何故食べることができないか? それはこのモグラの全身に毒があるからだ。


 この魔物の名前はポイズモゲラ、通称は毒モグラ。

 一年に何度か訪れる繁殖期にのみ地上で活動する魔物であり、その他の時期はずっと地面の中で寝ているらしい。特徴は毒の属性の魔力を持つこと。その魔力の影響でこのモグラはどの部位も食べることができないのだ。


 盲点だった。シールスカウターはレア度の判定が出来ても、食用かまでは分からない。


 毒自体がそこそこの高値で取引されるのだが、扱いが難しいので普通の流通ルートではまず買い取ってもらえないそうだ。こんな村住まいならなおさらである。


 つまりこの村でポイズモゲラは素材としても食材としても価値が無い。

 イコール私とシールの勝利の可能性は……ゼロだ!




 大本命の私が自滅した。それを知った途端、ローズに独身の獣人男性が群がる群がる。


「ローズちゃん、俺の獲物なんてどうだい?」

「いや、ボクの狩ってきた魔物の方が美味いよ」

「お、俺の、俺の方が量多いぜ!」


 あ、コラ。肩に手を置くな! 腰に手を回すな! おっぱいをガン見すんな!!


 ニヤニヤとエロい目つきで十一歳の美少女を取り囲み、ヤラシイ手つきでさり気なくボディタッチ。ちらりと胸元を覗き込んでは舌なめずり。ちくしょうやりたい放題か。


 獣人族の男は待てが出来ない。マリーベルは雄のさがを目撃したよ!




 けれどローズは審査員。そして私は選考外。敗者は沈黙がケモミミ的ルール。

 今の私は指を咥えて見ていることしか許されていない。


 私はその場で地団駄を踏み、悔し涙を浮かべる。

 ロリコン狼どもへの怒りのせいでエルフ耳もプルプル震えているよ。


「悔しい、悔しい! お姉ちゃんをあいつらに取られた……!!」


 しかもお姉ちゃんったらチヤホヤされて満更でもなさそうな顔を浮かべてる。

 意外とローズは周囲からのヨイショに弱いんだ。村の子に頼まれて女神役とかノリノリでやってたもんね。私も怒られそうな時は、よく褒めちぎって回避しているぐらいだ。


 今回の獣人どもの戦略は的確だ。

 おだててお肉をぶら下げる。そうすればローズはお持ち帰りし放題なんだよ!



 くそう、ローズは私のお姉ちゃんなのに。ローズに褒められるのは私の特権なのに。



 お姉ちゃんに褒められたい、お姉ちゃんに褒められたい、お姉ちゃんに褒められたい。

 勝ってお姉ちゃんに褒められたいんだ。何とかしてよ、神様ぁー!! 


 すると私を心配していたシール達が急に目を見開いた。


「ボス、攻略本が……!?」

「また光っていますわ」


 なんと私の背でぶら下げられた攻略本がキラキラと光を放っていたのだ。

 よっしゃ、キタキター! 私は迷わず本のページを開く。



【ポイズモゲラの毒の処置方法】

 この魔物の毒は物質的なものでは無く、あくまで毒属性魔力による汚染である。故にユグドラシルの聖水で対象を洗い流すことで処置が可能。

 毒抜きの際はエルフルウォーターのレベル二『加温用ホットモードのペットボトル』を使用すると、より速やかに作業が終了する。

 なお作業後、緑色に変色した聖水は毒化しているため排水には注意すること。




 というわけでシール達と一緒に穴を掘って水受けを作り、さっそく毒抜き開始だ。


 エルフルウォーターを発動させ、私はペットボトルを加温用ホットモードへと変化させる。

 蓋の部分が薄い黄緑色からオレンジ色になっただけで見た目はほとんど変わらないが、聖水は熱を帯びてお湯へと進化していた。相変わらず私にレベル差など関係ない。


 さあ、ポイズモゲラへお湯をバシャバシャぶっかっけろ!


 するとモグラを洗った聖水は透明から緑へと変色し、大量に穴へと溜まっていく。


「んんっ、ボス。この色が変わった聖水はヤバイ」


 聖水の方が毒化するって書いてあったもんね。シールスカウターは正確に反応しているようだ。でもそれはつまり毒抜きが上手くいっているという意味でもある。


 ぬふふ。私は零れ始めた邪悪な笑みを必死に押さえつつ答えた。


「危ないから、とりあえず雪で埋めとこっか」

「そうですわね。どなたかが落ちたら大惨事ですわ」


 サリーちゃんとシールに処理を頼み、私は毒抜きを続けた。

 そして何度もお湯を掛け続けて、もう緑の汁が出なくなったところでストップ。ユグドラシルの聖剣で切り取った肉を、聖水のお湯で湯掻いて試しに一口齧ってみる。


 緑から茶色になったお肉は……コリコリした歯ごたえでとても美味かったよ!

 今までに食べたことのない食感だ。私はすぐにローズの元へ報告に走った。


「凄いわマリー! これは業界に革命を起こせる発見よ!!」


 新しい食材との出会いに我が姉は満面の笑みを浮かべて私を抱きしめる。

 もちろん「凄い凄い」と喜ぶ彼女にどこの業界? なんて野暮なことは訊かないよ。

 ローズにぎゅーっとしてもらえただけでマリーベルは最高に幸せなのだ!


 そして優勝は私に決まった。お姉ちゃんから褒められた上に、ロリコン狼の群れを振り払い、ボスの威厳も保てる。ありがとう攻略本。あんた最高だ。


 獣人の若いあんちゃんたちは悔しそうにしていたけど、肉を分けてあげたら機嫌がすぐに直った。

 ついでに他の獲物と色々『コーカン』も出来て大満足。皆も嬉しそうだ。


 けれど、シールの兄のマジータだけは違ったみたい。


「いつか……いつかボスを越えて、オイラはこの想いをぉぉぉー!!」


 そう叫びながらどこかへ行ってしまった。

 元気いいね。でもローズもボスの座も渡さないよ。



 こうして皆での狩りは無事に終わり。私達姉妹はその夜、楽しい夕飯を迎えたのだった。






 今までのことを踏まえると、私は攻略本の仕組みがなんとなくわかってきた。


 この本は私の祈りに反応して必要なことを色々と教えてくれるんだ。

 ただし本気の祈りじゃないと駄目。そうでなければもっと普段からピカピカ光るはずだ。


 そして本気で祈るというのは結構難しい。私は普段の生活に不自由していないしね。

 シルキーのおかげで冬でも快適だし、食べ物も余裕でまかなえている。ローズと一緒だから毎日が楽しいし、これといって欲しいものがあるわけでもない。


「いや、待てよ。私の欲しいもの……?」 


 そして部屋の隅でお着替え中のローズを、ちらりと盗み見る。


 ユグドラシルの知識を超える人体の神秘であり、神がこの世に創造した奇跡の双丘。

 あのたゆんたゆんに揺れる柔らかおっぱいを禁止されてもう随分と時が経つ。


 本気の想い。本気の祈り。今の私が一番欲しているものは……


「ローズのおっぱいを合法的に揉む方法。ローズのおっぱいを合法的に揉む方法。ローズのおっぱいを合法的に揉む方法。ローズのおっぱいを合法的に揉む方法。ローズのおっぱいを合法的に揉む方法。ローズのおっぱいを合法的に揉む方法。ローズのおっぱいを合法的に揉む方法」


 お願い神様ぁー!!

 そして祈りは天に届き、攻略本に文字が刻まれる。



【エルフは無法者アウトローだ】



 盲点だった! 里からも家からも出ないからエルフには法とか無いんだよ。

 ありがとう攻略本。私の中でユグドラシルも目から鱗を落としてるぜ。


 謹慎期間は終了だ。マリーベルは思う存分おっぱいを揉むよ!


 それローズを押し倒して、揉み、揉み、揉みー。

 熊さんをモフモフした『おさわりスキル』は絶好調だ。

 なんだかローズが熱い吐息を漏らしながら「エルフって……ぁんっ、エルフってぇー」と叫んでいるけど、マリーベルはもう止められないよ。






 ……我を忘れるって凄いや。気付いたら朝だった。

 ベットに押し倒されたローズは沸騰したみたいに真っ赤になって頭から湯気を上げている。


「あうぅ……マリーは妹……マリーは妹……」


 まずい、めっちゃ怒ってるみたい。やっちまった。

 シール達に相談したら完全に有罪ギルティの烙印を押されたよ。


 忘れてたんだ。ここはエルフの里を離れた他種族の住まう領域。攻略本が許しても、ユグドラシルが許しても、お姉ちゃんを押し倒して無理やり胸を揉むのはアウトだったのだ。


 郷に入っては郷に従え。マリーベルは法の下に屈したよ!



 罰としてその日はご飯抜きな上に、しばらく口を利いてもらえなかった。

 そしてこれ以降、私はローズによって攻略本の悪用を禁じられたのだ。


 ぐすん。











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短編をupしました。暇つぶしにどうぞご覧下さい!
マリーベルと同じくギャグ要素多めの作品になります。
↓↓↓↓↓↓
異世界に転移した俺はカップめんで百万人を救う旅をする

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