23話 マリーは赤く染まる(前編)
一日店長を終えてからしばらくが過ぎ、冬も季節の峠を超え始めていた。
私は相変わらず村の皆とコーカンの毎日だ。ちなみに姉のローズはお肉を前にして涎を垂らし、シールは所構わずお漏らしをしている。
まあ皆いつもの通りだね。
あえて変ったことを挙げるならば、私にモーニングコールのサービスが付いた点だ。
「おはようございます。マリーベル様」
寝ている私に馬乗りになり、爽やかな笑み浮かべるのは幼女サリーちゃんである。
差し込む朝日によって癖のある赤毛のサイドテイルは燃えるように映え、少し下がった目じりが保護欲をそそる。ちょっぴりそばかすがあるのを本人は気にしているが、十二分に将来性を期待させる可愛い六歳児だ。
何より『幼女×馬乗り×目覚まし』という行動を素でこなしてくれるなど、ちょくちょくユグドラシル式評価基準のk点を超えてくる才気溢れる幼女である。
そしてサリーちゃんは赤い実を両手に握るといつもの行動に移った。
「それではお召し上がりください。我が主様ぁー!!」
「ちょっと待っ――グボッ」
今日も彼女は元気に木苺を私へねじ込み、我が家の寝床は赤く染まる。
確かにサリーちゃんは可愛いよ。可愛いけどこの情熱だけは怖いよ。
誰かヘルプミー。
マリーベルは後悔のレベルがぐんぐん上がっているよ!
何が凄いってこの為に、木苺を集めるのもサリーちゃんを送迎するのも村人総出で手伝っている点だよね。一応、村から馬を出してくれるから歩くよりは随分と早く着くらしいけれど、サリーちゃんはいつも日が昇る前に村を出るらしい。
私へ木苺をねじ込む為だけに、ラーズ村の人たちはアグレッシブに動き過ぎだよ。
「いえいえ、命の恩人の為ですから当然ですわ。それにマリーベル様とローズ様は遠くない日にはこの村を後にするご予定ですもの。それまでの間ぐらいは多少、無理をしてでも恩に報いなければラーズ村の名折れです。何よりわたくしはマリーベル様と『コーカン』致しましたから」
ひたむきなサリーちゃんは毎日、素早くザッカリーをねじ込む修行をしているそうだ。
うん、確実に何かが違うね。
「あの……もしかしてご迷惑ですか?」
しゅんとして涙を溜めるサリーちゃん。このままこの子を泣かせておくのかって?
ノンノン、だって私は森と幼女を愛するエルフ族。
マリーベルは種族の矜持を守るのだ!
「でも起きてすぐは止めよっか。ローズの朝ごはんが食べられなくなっちゃうし」
「はい、マリーベル様!」
「マリーでいいよ」
「はい、マリー様!!」
様は取れなかったね。まあ喜んでくれているようでなによりだ。
どこからか「ふふふ、言質は取りましたわ。これでわたくしは一生マリー様のしもべです」というサリーちゃんの呟きが聞こえたけれど、きっと気のせいだね。
難聴スキルは主人公の嗜み。
マリーベルはスルーを覚えたよ!




