15話 マリーは店を乗っ取る(中編)
さあ、いざ始まったマリーベルの交換所生活。
まず最初のお客さんは近所の子供達だった。なんと私が交換所の一日店長をすることをどこからか聞きつけ、我先にと突撃してきたのだ。
「「マリーちゃん、交換しよー」」
集団で現れたのは村で十歳未満の子供が集まったグループだ。
開店と同時に、にっこにこの笑顔でやってきた子供達の手のひらには、派手な色をした鳥の羽が握られている。
彼らの目的は唯一つ。伝説の武器との交換だ。
「「聖剣ちょーだい!」」
「おおー、いい色じゃん。今日はその羽と『コーカン』だね」
ちなみに聖剣は店の商品じゃないよ。私が適当に削って作った木剣モドキのことね。
シールのユグドラシルの聖剣を自慢してからというもの、実は村では聖剣ごっこが大流行中なのだ。いろんな子達が欲しがるので、コーカン用にたくさん準備しているよ。
おかげで私は小さい子に引っ張りだこ。
もちろん勇者に剣を渡す神様の役でね。
さあ崇めるがいい。
マリーベルは女神になったのだ!
でも子供って正直だね。
いざ聖剣を与えようとしたら、きっぱり断られたんだ。
「えー、ローズ姉から渡して欲しい……」
お姉ちゃんったら「え? 私?」と言いつつも、ノリノリで女神役をこなしてたよ。
その後どうなったかって? 知ってるかい、聖剣は魔王を倒すために存在するのだ。
「「魔王マリーベル覚悟ぉー!」」
私の生み出した聖剣は自らを滅ぼす刃となった。
皮肉な結末だ。
マリーベルは討伐されたよ!
気を取り直して次は近所のおばちゃんだ。
干し肉と塩のコーカンを依頼されたよ。お肉ならローズが喜ぶから大歓迎だね。
「オッケー、干し肉と塩一樽を『コーカン』ね」
「待てい! 明らかに渡しすぎだろうが!?」
ぬぬぬ、マジルさんが邪魔をする。私が店長で責任者なのにぃ。
「なんで樽で渡すんだよ?! これだとせいぜい小瓶一本だろ」
「くっそー、邪魔者め。おねえちゃんからも何か言ってやってよ」
口うるさい部外者を黙らせるために、私は頼りになる姉に救援信号を送るのだ。
すると専門家は、黙々とお肉を鑑定して判断を下した。
「お肉自体は普通のモンゴレブタの肉ね。味の付け方はおそらく塩とハーブだけ、けれど漬け置きの段階で時間をかけて丁寧に肉を揉んでいるわ。こうするとモンゴレブタにある独特の肉の臭みが消えて使える料理の幅がぐんと広がるの。おまけに熱の加え方もとても上手ね。柔らかさと保存性を両立した絶妙なバランスよ。これは噛めば噛むほど肉の旨みが染み出てくる……都に店が出せるレベルの品物だわ」
お姉ちゃんったらマジ有能。お肉の鑑定眼が半端じゃないよ!
食べてないのにどうしてそこまでわかるのさ?!
「わずかな色や香りの違い。そして何より作った人の目よ」
おばちゃんとローズは、いつの間にか硬い握手を交わしていた。
「店長、このお肉なら手間と味を考慮に入れて塩は小瓶二本でどうかしら?」
「あ、はい。それでお願いします。お姉さま」
あまりにもテキパキとした動きに思わず敬語使っちゃったよ。
そして「まだまだ青いわね」と妖艶な笑みを浮かべる十一歳を前に、私とマジルさんは何も言わずにカウンターで佇んでいた。
「邪魔とか言って、ごめんねマジルさん」
「いや、俺も少しばかり興奮し過ぎたようだ。すまん」
こうしてコーカンを通して、私達はお互い歩み寄ることになった。
雨降って地固まる。
マリーベルは譲歩を覚えたよ!




