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14話 マリーは店を乗っ取る(前編)



 ニョーデル村のような開拓村では、貨幣の流通がほとんどない。


 たまーに各地を回って商売をする旅商人なる者が訪ねてきたりもするが、ここは辺境のど田舎。商人にとって全く旨みが無い土地なので、大抵は一回こっきりの来訪だ。

 もちろん村の定期便を使って、都で物資を売り買いすることはある。だから各家に蓄えとして貨幣は存在するが、村人同士では物々交換がほとんどだ。まさにタンスの肥やしである。


 けれど物の価値は人それぞれ。明確な基準がなければ完全に平等な交換は難しい。


 その上、日常的に取り交わしている作物や身の回りの備品ならばともかく、この世界ノアには魔法や魔物の存在がある。一見すると価値がなさそうな道具や素材も、魔力が付随することで金貨の山に変わってしまうのだ。


 それらの物の価値を知識のない個人が判断するのは、非常に困難なことである。

 森を切り開き、田畑を耕し、新しい土地を開発していく使命を持つ村人たち。そんな彼らが個々の判断で交換を行うことは無用な混乱が起きる可能性があった。



 それを避ける為、各開拓村に必ず存在するのが『交換所』という存在だ。



 村人同士を仲介し、豊富な知識を持って物の価値を判断する専門職のことである。

 領主から開拓地として認められた場所には村全体への支援金が支給されるのだが、その中には交換所を運営する為の費用も含まれているという。



 ニョーデル村の交換所のカウンターでペコロン茶を飲む私とローズ、そして娘のシールの三人にマジルさんは鼻高々に解説する。


「つまり俺は村の混乱を避ける為に、領主様から直接任命された役人みたいなものなんだよ。交換所で行うのは金儲けを求めた商売じゃなくて対等な交換だ。利益は乗せずに取引して、皆の生活の手助けをするのが仕事なのさ」


 ニョーデル村の村長夫婦とマジルさん夫婦は四人で一緒に冒険者をした仲で、結婚を機に引退しようとしたところ、知り合いだった領主様からこの土地の開拓を任されたらしい。

 マジルさんは冒険者の頃から知識が豊富だったから、目を付けられていたそうだ。


「だから交換所の店長ってのは誰でもいいわけじゃないんだ」



 マジルさんはそう呟くと、涙声で続けた。



「マジで今日だけだかんな! 嬢ちゃんにその地位を譲るのは一日だけだかんな!」

「わかってるよ。約束したもんね」

「マジだな? 絶対だからな!?」

「マジルさんこそ、ちゃんと『コーカン』したんだからいい加減、黙って見てなよ。私がこの身に宿るエルフの直感で完璧な店長の役をこなすところをさ!」

「頼むから直感でしないでくれ……。ああ、ちくしょう。やっぱりこんな取引に応じるんじゃなかったぜ」


 なぜこんな会話をしてるかって? ご説明しましょう!

 なんと私、マリーベルは今日からニョーデル村交換所の店長に就任したのだ!!


「ひゃっほう! これで一国一城の主だぜぃ」

「違ぇ! 今日一日だけ。一日店長だ!」


 この状況も実はシルキー召喚の恩恵である。

 マジルさんは初めて召喚した時に一緒にいたからね。ローズとシールが着ている服だけ特別仕様なことを知っているのだ。


 仕事柄、マジルさんと息子さんは村と領都を往復することが多い。道中に魔物が現れることもあるそうだ。だから身の安全のためにも特別仕様の服を『コーカン』してあげることにした。


 その結果、得たものが交換所の一日店長である。

 いえっふー。マリーベルはウハウハで笑いが止まらないよ!


「ふっふっふっ、店長権限でお姉ちゃんは副店長に決定!」

「了解よ。お肉の交換なら私に任せて」


 うん、頼もしいね。でも涎は拭いとこうか。


「シールは店員さんね。私と副店長の指示に従い、お客さんをもてなすのだ」

「心得た。ボス……んーん、店長」


 シールはビシッと敬礼する。指示を受けると張り切る女の子だ。


「俺は?」

「そこで安心して漏らしてな!」

「マジでか!?」


 マジルさんってば早速漏らしてくれたな。とりあえず彼には雑巾を渡して床拭きをお願いする。

 さあ、綺麗になった所で交換所の開店だ。


「待って、マリー。一つだけ言わせて」

「ボス。一点だけ要求しておきたいことがある」

「あー嬢ちゃん。一個だけお願いをさせてくれ」


 そして三人は口を揃えて言った。 


「「ローズ(副店長)の命令には絶対に従うこと!」」



 私って信用ないね。

 マリーベルはご立腹だよ! 








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短編をupしました。暇つぶしにどうぞご覧下さい!
マリーベルと同じくギャグ要素多めの作品になります。
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異世界に転移した俺はカップめんで百万人を救う旅をする

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