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13話 マリーはペコロン茶を飲む(後編)



 オムツ以外にもシルキーには色々と作ってもらった。


 シールの服は前回の『ダウンジャケット』だが、色は黒でデザインも少々変わっていた。首周りが膨れた作りになっているのでマフラーが不要な一品なのだ。


 下は赤と紺のチェック柄のスカートと黒タイツを履いている。年頃の女の子の可愛らしさも備えつつも、活発な動きをするシールにピッタリな服だ。



 ローズには紺色の『ダッフルコート』というものも作ってもらった。


 ダウンジャケットのつるっつるな感じとは違い、毛がとても滑らかでとても肌触りが良かった。所々に雪の結晶をイメージした刺繍が施され、ポケットや袖口にあるレースも可愛くて好評だ。


 スカートは薄水色の生地を使用し、厚手の白タイツで足を覆っている。


 全部着ると、うちのお姉ちゃんったらまるで妖精さんみたいにかわいいの!

 私も同じものを仕上げてもらい姉妹でお揃いという微笑ましい光景が完成した。

  

 もちろん、その日はちゃんと全裸を我慢しましたよ?






 シルキーによると私の魔力の効果は絶大だ。


 魔法の服は保温性も高く、少々の濡れならすぐに乾くので冬の空の下で何時間遊んでも全く寒くならないらしい。


 おまけに耐物理防御と耐魔法防御が非常に高く、着込んでいれば少しぐらいの攻撃にはビクともしないのだ。


 だから私が二人を籠に入れて爆走しても、あまりダメージを受けなかった。

 ゆっさゆっさ揺れているにも関わらず、今回はローズはゲロゲーロしなかったのだ。


 偉大な進歩ではあるが、ユグドラシル的ご褒美はお預けである。


 ……………………

 …………

 ……


 少々不満だ。

 マリーベルは物足りないよ!






 あえてこの服の弱点を挙げるならば、それは鮮やか過ぎて目立つことだね。


 なんでもシルキーの持つ技術や服のデザインは『衣の知識』というかつて繁栄した太古の世界のものらしい。

 だから今の世界ノアには珍しい物ばかりなんだ。



「それってもしかして、ローズが話してた地球のこと?」

「さあ、そこまではわかりませんの。わっちはあくまで『衣』に関することしか引き継いでいませんので」



 頬に手を添えてシルキーは首を傾げると、急に瞳を暗くして呟き始めた。


「あとわっちにあるのは何百何千年と続くエルフの里での監禁生活の記憶なのです。

 密室で開放されるのはいつも決まってエルフ達の歪んだ欲望……。

 お兄ちゃんっ子の妹、ワンコ系幼馴染の同級生、甲斐甲斐しく世話する義理の母親と様々なシチュエーションを強要され、そしてわっち達は……


 こほん、失礼。取り乱しましたの」



 シルキーはトラウマスイッチがいっぱいあるから扱いづらいね!


「とにかく、わっちも世の中についての情報はあまり知らないのです。代わりにエルフの男性達の性癖についてなら何でもお答えできますの!」


 うーん、手のひらサイズの見目麗しい妖精がなんだかエグイこと口走ってるよ。


「マスターの魔力ほどではありませんの!」


 とってもいい笑顔で言われた。

 失礼しちゃうぜ全く。





 

 とにかくシルキーの服はとても目立つため、その存在はすぐに村中へ広まった。


 皆は茶色ばった服しか着てないからね。

 たまに魔物の皮で青や赤っぽいのがあるぐらいだ。


 都ならもっと色々あるらしいが、ニョーデル村のような田舎にはこれが普通らしい。


 だから色とりどりなシルキーの服を皆が欲しがったんだ。

 真っ先にやってきたのは子供達だ。


「エルフの姉ちゃん、交換しよー」

「私もー、私も交換して欲しい」

「俺も俺も!」

「あ、あたしもお願い!!」


 朝起きたら、小屋の前に村中の子供が集まってた。

 もちろん私のテンションメーターはその光景を前に振り切れたよ。


「よっしゃー、皆で『コーカン』だ!」

「「おおー!!」」


 皆が持ってきた品物と服を『コーカン』だ。


 珍しい形の石やヘビの抜け殻なんかもあれば、木で彫ったお皿や、いい匂いのするポプリなんかもあったね。

 みんな自分の宝物を持ち寄ってきたみたい。


 交換中は皆でワイワイとおしゃべりして楽しい時間を過ごしたよ。


 もちろん戦利品がいっぱいでマリーベルはウッキウキなのだ!



「それじゃあ、いくよー。

 おいでませ、シルキー!!」



 私の魔法でシルキーが登場すると、子供達は全員「凄い、凄い」と大はしゃぎ。


 更に尊敬の眼差しがこちらに集まり、マリーベルは二度ウッキウキなのだ。



「こんなにたくさんの服を作れるようになるなんて……。幸せですのー!!」



 そして沢山のオーダーにシルキーもウッキウキであった。





 一応、今回からはシルキーに渡す魔力量を少し抑えることになっている。


 シルキー曰く、「マスターやローズ様達が使う分には構いませんが、あんなエグイ装備を無差別にばら撒くのは危険すぎますの」ということらしい。


 うーん、でも私は手加減が一番苦手なんだけどなぁ。


「心配はいりませんの、その辺りはわっちが何とかするのです。保温性と速乾性、そして長く使えるようにある程度の丈夫さは残しつつ、世界に混乱をもたらさないレベルの素材で思いっきり好きな服を作ってやりますの!」


 それでも最終的には騎士の鎧ぐらい頑丈になったのだから、私の魔力マジやばい。


 シルキーは皆の要望に応えつつも『衣の知識』と己のセンスを取り入れ、見たこともない服を次々と完成させた。


 おかげで皆が外でも暖かい時間を過ごせるようになり、そののまま全員で日が暮れるまで雪遊びをした。

 皆で新しい服と雪の合わせ技に大はしゃぎ。


 その日から静かだった村には子供の笑い声が戻ってきたのだった。







 それからもシルキー召喚による快進撃はまだまだ続く。


 子供が手に入れた服を見て、次は大人達が欲しがったのだ。再び小屋に群がる人垣を前に、私はノリノリで叫んだ。


「それじゃあ、『コーカン』だー!」

「「おおー!!」」


 皆、ノリいいね。いい感じにマリーベル色へ染まってきてるよ!


 ママさん達とはご飯のレシピを『コーカン』した。これにはローズが大喜びだ。


 パパさん達は肉体労働が多かったかな?

 雪かきとか薪割りとかやってくれたよ。


 あと村の若者達とは今度一緒に狩りをすることになった。『コーカン』で罠の仕掛け方とか教えてくれるんだって。マリーベルはトラップのスキルを手に入れるのだ!




 そんなこんなで交渉を終え、シルキーさんを呼び出して作業を始める。


 大人でもやっぱり魔法は珍しいのかな?

 皆、ぽかーんと口を開けてシルキーのことを眺めてたよ。あっという間に出来上がる服に感動してるみたいだ。


「あのねぇー、マリーちゃん。お願いがあるのー」


 もうじき全員分の服が完成する時に、ゆったりとした優しい口調が私を呼んだ。


 そこにいたのは黒い長髪を束ねた二十代後半のヒト族の女性で、名前はマゼットさん。

 確か村長の奥さんだ。私はちゃんと覚えてるよ、ローズよりもおっぱい大きいしね!


 そんな彼女は私にひとつのお願いをした。それは――


「シルキーに縫い物を教えて欲しいの?」

「そうよー。こんなに凄い服を私達も作れないかなぁーと思って、村の女性達と話し合ったの。そうしたら駄目元でも一度挑戦してみたいと皆が口を揃えて言うのよー」


 魔法を使って魔力の篭った服を作るのは不可能だ。けれど自分達で布を染め上げ、デザインを真似て作ることなら出来るかもしれない。


 シルキーの見たこともない服を前にして村の女達の創作意欲に火がついたそうだ。


 それを聞いたシルキーは感無量の涙で顔を濡らした。



「ぜぜぜ、是非このお話をお受けしたいですの!」

「え、いいの? 別にシルキー自身が服を作るわけじゃないんだよ?」

「そんなことありませんの! 布教も立派な創作活動の一環なのです。一人で黙々と作業に没頭するのも幸せですが、皆で一緒にデザインや縫い方について語らうのも乙ですの。

 何よりそこから新たな流行が生まれるかもしれないと思うと、わっちの興奮は天元突破なのです!」



「ありがとー」と、のほほんと笑う奥さんとシルキーは熱い握手を交わしていた。


 冬の間は私の魔力で作った糸と布で練習して、春からマジルさんを経由して都で素材を仕入れるそうだ。

 あとシルキーも「衣の知識」から色々な素材の作り方を教えるらしい。


 マゼットさんと私が『コーカン』するものも決まった。


 ふっふっふー、これはローズが喜ぶぞー。


 服も『コーカン』するものも、これからどうなるか楽しみだ。






 こうしてシールのお漏らしから始まった騒動はこの村に様々な改革をもたらした。


 冬に入り閑散としていた村には外で走り回る子供達の姿が戻り、男達も意気揚々と仕事に出かけるようになった。


 女性達は村長の家に集まり、シルキーから布や糸、そして服の作り方を毎日学び、新しい服作りに意欲を燃やしている。


 そんな村の様子を眺めながら「やっぱりボスは凄い」とシールが呟く。

 ストレートな彼女の褒め言葉に照れくさくなって、私はぴっこんぱったんとエルフ耳を動かした。


 そういえば、シールが元気になったら渡したい物があったんだ。


「はい、シール。これあげるよ」

「んんんっー!! ボス何コレ!?」


 渡したのは何の変哲もない一本の木剣だ。

 でもこれ何か魔法が掛かってるみたいで、普通の剣より凄く切れ味いいんだよ。

 試しに岩に投げつけたらバッサリ両断してたし。


 ――ん? 私は使わないのかって? 

 残念ながら剣より私の拳の方が硬いのさ! 


 だからゲットしてもその存在を完全に忘れていたのだ。うっかりである。


「ちょっと前に森でバトったエルフからの戦利品だよ」

「エルフの剣? これ間違いなく赤色。かなりヤバイ代物だと思う」


 シールスカウターは完璧に漏ら……

 いや、反応しているようだ。


「そうなの? でもそれを持ってた奴はエルフパンチ一発の雑魚キャラだったよ?

 なんかいい歳して、『俺はエルフ族の勇者だぁー』とか、『聖樹ユグドラシルから生まれた勇者の聖剣がぁー』なんて幼稚でイタイことばっか叫んでる変人だったし」

「……少しそのエルフに同情する」


 なんか微妙な顔された。解せぬ。


 でも軽い、切れる、頑丈の自称ユグドラシルの聖剣はシールもすぐに気に入ってくれたみたい。嬉しそうに振り回した後に、私の元へ駆け寄ってきて言ったんだ。


「本当に嬉しい。ありがとう」


 やっぱり表情はいつものままだけど、尻尾と耳を今まで見た中で一番揺らしていた。

 口元も少しだけ上がってるかな? 

 声もいつもより跳ねていて明るい感じだ。


「ボス、私もボスと『コーカン』する」

「今回はいいよ。それはシールにあげたんだから」

「んーん、お願い」


 そしてシールは誓ったんだ。

 私とローズへこれから先の自分の未来を。


「この剣と『コーカン』に私は約束する。絶対に冒険者になって、いつかボスとローズを追いかける。例え二人が世界の果てにいたとしても、必ず会いに行く」


 強い意思を宿した瞳が、私とローズを映していた。


 シールは頑張屋な女の子だ。

 だからこの約束もきっと守るのだろう。


 その未来は必ずやってくる。

 私とローズは二人してそれを予感していた。


 だから私たちは共に柔らかな笑みを零す。


「その時は、また皆で一緒にペコロン茶を飲みましょう」

「だね。シールにはいっぱい茶葉を作ってもらわなきゃ!」

「うん、大人になっても……いつまでも三人で一緒にペコロン茶を飲む!」


 そして私達は攻略本をテーブルにして暖かいお茶を今日も飲む。


 にぎやかな村人達の笑い声を心地よい音楽にして、いつか来る未来を夢見ながら私たちはペコロンのお茶を今日も飲む。


 この先、幾度も三人で飲むことになるペコロンの味はとても美味しかった。








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短編をupしました。暇つぶしにどうぞご覧下さい!
マリーベルと同じくギャグ要素多めの作品になります。
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異世界に転移した俺はカップめんで百万人を救う旅をする

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