12話 マリーはペコロン茶を飲む(前編)
色々な獲物と『コーカン』で村の人たちが作ってくれたマリーベル専用の大籠はとても頑丈だ。
上下左右に激しく動いても千切れない魔物素材の背負い紐と、何重にも編みこんで大きな重量にも耐えれるようになっている籠。
その二つのおかげで子供なら三人ぐらいは運べる性能になっている。
そして現在、私はその籠にローズとシールを乗せて森を爆走中である。
いつかの特訓のようにわざと高いところから飛び降りたり、獣の群れに飛び込んでみたりと縦横無尽に森の中を駆け回っているのだ。
理由はシールの新たな装備品の試運転である。
「シール、それうまく機能してる?」
振り落とされまいと籠に掴まるシールに私は問いかける。
以前ならここまで速度を出すとシールはすぐにお漏らしをしていた。
けれど今の彼女にその様な様子は無い。
何故ならシールはもう手に入れたのだ。
下半身を聖水からガードしてくれる万能装備を。
「問題無い。むしろ履き心地は最高」
相変わらず表情は変わらないが、言葉通り喜んでいるらしい。
シールの耳はピクピクと歓喜の踊りを舞っていた。きっと尻尾も籠の中で揺れているだろう。
シルキー召喚の次のページに乗っていたのは、シールの為のある装備だったのだ。
【名 称】
エルフのオムツ
【概 要】
エルフ族に伝わる布オムツ。種族魔法シルキー召喚を習得後、レベル三以上に達することで作成可能。オムツの履き心地や能力は術者の魔力に依存する。
効果は排泄物の分解と、超速乾性能。粗相をしても術者の魔力が続く限りオムツの清潔さを保つことが出来る。故に洗濯は不要。
生まれたばかりのエルフや、年老いたエルフが使用することが多い。時折、若者のエルフが愛用することもある。
うん、凄いけど最後のほうに何か変な記載があるね。
私は察してるぜ。きっとものぐさなエルフがコレを履いて引きこもってるんだろう。
別に愛着なんて微塵もないけど、何だかマリーベルは同じエルフとして切ないよ。
するとシルキーが「それだけではありませんの」と何もかもを諦めた声を上げる。
「エルフの男性は女性にこのオムツをつけてもらって色々と燃え上がりますの」
「聞きたくなかったよ。そんなエロフ事情!?」
エルフは色々と闇が深いね。
マリーベルは少しだけ大人になったよ!
とにかく新たな装備を手に入れ、衣類の濡れを気にする必要のなくなったシールは『獣人×美少女戦士×おむつ』という前人未到の領域へと踏み出したのだった。
今もまさにオムツの効果により超高速で吸収、分解、乾燥が行われている最中である。
つまり銀髪の美少女は、清清しい表情を浮かべながら現在進行形で色々と垂れ流ししているのだ。
――え?
この方法は世間的には問題あるって?
でも残念。
ユグドラシル的にはグッジョブ案件。
シールもすこぶるご機嫌なのでノープロブレムな解決法なのだ!
「ボス。これは本当に凄い! ズレない、蒸れない、おまけに吸収力も凄い。全く漏れない上に、肌触りも通気性もいいから気分も爽快。きっとボスも一度履くと病みつきになる」
「そ、そんなにいいの?」
「まさに匠の一品。もう一生、脱ぬぐことは出来ないかもしれない」
シールさんったら素敵な瞳で生涯オムツ宣言。
マジか、マジでか!
マリーベルに少しマジルさんが乗り移ったよ!
自分の作品を褒められたシルキーは私の頭の上で大喜びだ。
「マスターのぶっとび魔力の作品ですので、効果切れなんて一生ありえませんの。だから安心して履き続けて欲しいのです。むしろ汚れなんて付かないから普段も脱ぐ必要ありませんの!」
「それは乙女としてどうかと思うわ……」
ローズはちょっぴり否定的だね。でもシールが元気になったから私は気にしないよ。
例えどんな問題があろうとも大好きな友達の笑顔が一番なのだ。
だからドンウォーリー。
マリーベルは問題をポイ捨てするよ!
シールが『エルフのオムツ』によって獲得したのはお漏らしの防止だけではない。
なんと彼女は冒険者に必要不可欠なあるスキルを習得したのだ。
「ねえ、シール。これは?」
「んー。青色」
「じゃあ、これは?」
「んんっ、黄色」
「最後は、これ!」
「んんんッ!! 赤色。これはヤバイ」
お漏らしが公認になったのなら、危険を察知する索敵機能と、物の価値を判別する鑑定機能を最大限に活用すべき。
そう思った私達はシールに漏らした量を色で表現させることで、危険度やレア度をランク付する方法を考えた。
今のところ『青色は、まあそこそこ』『黄色は、結構やばい気を引き締めて』『赤は、マジヤバイ』の三パターンである。
名付けてシールスカウター。命名は私ね。
この能力によってシールは初見でも相手の実力や価値を判断できる物差しを得た。これは彼女が冒険者をする上で非常に有効な力となるだろう。
朗報だ。
シールは索敵&鑑定能力を手に入れたよ!
そして彼女はもう一つ得たものがあった。
それは私の攻略本をまたまた奪おうとした村の悪ガキを成敗した時のこと――
悪ガキを吹っ飛ばした後のこの台詞だ。
「漏らすまでもない」
雑魚ってことね。
無表情に言い放つシールさんったらマジイケメン。
快挙だね。
シールは決め台詞を獲得したよ!




