07話 マリーは友と過ごす(前編)
はい、というわけで新たにニョーデル村の住人になったマリーベルです。
あの宴から数日が経ち、私とローズは徐々に村の生活に馴染み始めているよ。
最初の頃は、不便なところが多かった。やっぱり子供二人だと、生活の知識が色々と足りないのだ。
ローズもお母さんの手伝いはよくしていたらしいけど、いざ自分だけで家事をするのは勝手が違うみたい。
でも毎日、様子を見に来てくれる村人たちに教えてもらいながら、少しずつ必要なことを覚えていったよ。勿論、私もたくさんお手伝いしたのだ!
まず私達は朝起きてご飯を食べると、二人で手分けして井戸で水を汲んだり、掃除や川で洗濯をする。こんな時の力仕事は私の出番だ。普通なら何往復もしなければいけない水運びも大瓶を抱えて一度で終わり、同じく洗濯物も大籠に入れて余裕で運搬さ。ローズと一緒に川でゴシゴシ洗った後は、洗濯物を干して無事終了である。
そして次は二手に分かれて行動する。
私は近所の森に木の実や野草を拾いに行き、ローズはその収集物を干したり潰したりして保存が効くように加工するのだ。食に関してのローズはとても手際がいいので、これらの作業はいつもすぐ終わる。こうやって今晩のおかずや、冬への備蓄を蓄えるのが私達の日課の一つだ。
「さすがお姉ちゃん。これで冬もばっちりだね」
「ふふふ、マリーがたくさん取って来てくれたおかげよ。どれも多めに作ったからお昼を食べたらマジルさんの所に行って何かと交換しましょう」
「おおー、これも『コーカン』していいの?」
「もちろんよ。マリーも何か欲しいものがあったら言ってね」
「わかった。ヒト族の村は交換所で『コーカン』出来るから楽しいよ!」
ここまでで午前中の作業は終了。
その後、お昼ご飯を食べた私達は交換所へ顔を出す。もちろん大好きな『コーカン』をする為にね。私が獲って来た物や、ローズが作った物を毎日のようにマジルさんと『コーカン』するのさ。
私は早く交換所へ行きたくて、何度もローズの手を引っ張った。
「お姉ちゃん、早く。早く行こう!」
「そんなに慌てなくても交換所は逃げないわよ」
「んー、だってー」
「もう、マリーは本当に『コーカン』が大好きね」
「それもあるけど……それだけじゃないよ」
私がこんなにもウキウキしているのは『コーカン』できるから……というだけではない。
『コーカン』と同じぐらい大好きで、とっても会いたい人物が交換所にいるからだ。
ちなみにマジルさんじゃないよ?
「こんにちわ。シーちゃんいますか?」
「やっほーシール。遊ぼう!」
目的の人物はマジルさんの娘。獣人の女の子で、名前はシールだ。宴の時は犬っぽいと思ったけど、実は狼の獣人らしい。光が反射すると少し青みを帯びる銀髪に、純度の高い黒水晶のような瞳を持つシールはローズと同じ十一歳だ。
身長はローズと同じぐらいだけど、シールは全体的に線が細い。あと銀髪をみつあみのお下げにした姿は愛らしいけど、少し田舎娘っぽいかな? たまに覗かせる獣人特有の八重歯が可愛くて私は好きだ。
そしてローズとシールは大の仲良しである。
お肉大好き仲間だって? 知ってたよ。
「ボス、ローズ。いらっしゃい」
シールの口数は少ない。表情もあまり変化がないので一見するとクールガールだが、実はそうではない。彼女はほんのちょっぴり感情を出すのが苦手なだけだ。
それはシールの尻尾を見れば一目瞭然である。
「二人が来るの待ってた」
口調も表情も抑揚は少ないが、シールの銀の尻尾は嬉しそうにフリフリしている。頭にある獣耳も心なしかシャキっとしているようだ。かくいう私もエルフ耳を盛大にピッコン、パッタンと動かしているので、隣のローズはいつも笑いを堪えるのに必死だ。
ちなみにボスってのは私のことね。宴の日から村中の獣人族にそう呼ばれてるよ!
「今日もボスは交換するの?」
「するよ! 今日もマジルさんをチビらせてやる」
「わかった。呼ぶ」
任務を与えられると、どことなく誇らしそうにシールは頷く。
この後、マジルさんが「マジか、マジでかぁー」と尿漏れを起こすまでが最近の様式美だ。
あ、今日はシールも一緒に漏らして、落ち込んじゃった。
フサフサの尻尾が、しゅーんって項垂れてるよ。
「……またやっちゃった」
気にしてるみたいだ。女の子だもんね。
友達だから私は励ますよ。
「大丈夫。美少女のそれはユグドラシル的にはご馳走だよ!」
だから元気出して! と親指を立てると、親父さんの方が反応した。
「マジか、じゃあ俺のも……?」
頬を赤らめてこっち見ないで!
ユグドラシル的にもおっさんのはただの粗相だよ。